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劉 迪 氏 
(杏林大学総合政策学部助教授) 


異文化体験も立派な勉強  精神的背景への理解が不可欠

 今後の留学生政策には、「いかに留学を身近なものにするか」という視点から、個々人のさまざまなレベルとニーズに適応できるような柔軟なデザインが必要であり、ハイレベルな研究員、大学院生、学部生はもちろん、中学生、高校生の留学生や短期留学生もさらに積極的に受け入れていくべきです。実際にどのような留学のニーズがあるか、21世紀の経済社会の発展に基づいて想像力を働かせて答えを見つけ出していかなければなりません。
 日本の留学生受け入れは今まで国主導の側面が強かったのですが、今後は大学や企業が主体的に動き、組織単位の利益を追求する枠組みを打破していくことが必要でしょう。21世紀に入り、もう政府が人材を養成するために留学させる時代は終わりました。
 日本の留学生の受け入れ政策は個々人の意思をもっと反映させるべきだと考えています。学習目的の多様性に応じ、さまざまなプログラムを提供し、さまざまな次元での留学生を受け入れることが必要ではないかと思います。たとえば漫画やアニメの研修とか、ICTセミナーなどの場が提供できるのではないかと思います。
 私が知っているかぎり、数多くの中国の大学は自分の大学の学生を4年間の在学期間の1年間ないし2年間、日本の大学に留学させたいと希望しています。これは中国の若者の日本理解にとって大変よい機会ですので、積極的に対応したらと思います。日本大学側として諸外国の大学生を1年間だけ受け入れる専門の学部を創設したらいかがでしょう。留学単位互換などはその一例です。
 さらに柔軟に考えれば、留学は身近な生涯学習の方式にもなるのです。定年後も勉強する団塊世代を見てもわかるように、社会人は勉学意欲が非常に高く、潜在的な留学予備軍と考えられます。そういう社会人のために、もっと生活に密着した留学生受け入れプログラムを提供すべきです。異文化での生活体験も一つの立派な勉強であり、そのような実体験のベースの上で東アジア共同体も実現できるのです。外国に行くこと自体が実は学ぶことなのだというモデルを創出し、留学の概念をもっと豊かにすることが必要です。
 例えば環日本海の各県・市の間で実施されている教育交流プログラムなどは大変すばらしい試みです。国の枠を超え、環日本海という共有する地域の連帯感を強めようとするものです。その実現のためにはお互いの精神的背景への理解が不可欠です。
 日本は近代以降、西洋の学術と文化を取り入れ、東洋文化と結びつけて独創的な伝統を作り出しました。これは隣の中国にも大きな影響を与えています。
 私は現在、在日中国人の学者が10年間かけて日本の学術書150巻を中国語に訳して中国で出版するという『日本学術文庫』プロジェクトの編集長を務めています。現在『風土』(和辻哲郎)と『甘えの構造』(土居健郎)が商務印書館(中国・北京)より出版されています。中国人の日本人に対する知的関心は高まっており、日本の原典および解説を中国の読者に届ける意義は大きいものがあります。今後、東アジア共同体構築のための知的共同作業の一環として取り組んでいきたいと考えています。


りゅう・てき 
中国出身。人民日報社外報部記者を経て来日。早稲田大学大学院博士後期課程修了、法学博士。早稲田大学客員講師(専任)等を経て現職。「日本学術文庫」(150巻)編集長(商務印書館・北京)