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向学新聞2021年7月記事より>

留学生の就職支援
公益財団法人京都府国際センター
外国人留学生等支援員(シニアコーディネーター)

谷川拓巳 氏

15年にわたって、留学生の就職支援の最前線でキャリアカウンセラーを務めてきた、谷川氏にお話を伺った。

谷川氏

たにがわ たくみ
関西学院大学大学院 博士課程 総合政策研究科 都市(労働政策)政策専攻 修了キャリアカウンセラー、産業カウンセラー、行動心理士、大学非常勤講師、大手広告代理店、中堅広告代理店(海外勤務)、大阪市若年者就職相談、京都府KYOの海外人材確保推進協議会、アジア人財資金構想高度実践留学生育成事業京都府責任者、京都府ジョブパーク(外国人留学生支援統括責任者)などを経て現職。

 
 谷川氏が日本企業の採用方法や採用方針を見て感じることは、日本企業独特の画一的な採用方法に対する疑問だ。特に、適性検査などの試験を日本語で実施することで、多くの留学生が苦戦を強いられている。このような採用方法にあらわれているのは、「日本人化している・日本人らしい留学生なら採用したい」という日本企業の採用スタンスだ。どこか、「グローバル人材」という言葉だけが、実態と離れたところで浮かんでいるように感じられる。母国語や英語で実施できるように配慮したり、従来からの画一的な採用方法自体を見直すべき時であると指摘する。
 
大学の就職支援
 大学が抱える課題としては、キャリアカウンセラーによる十分な支援ができていない点があると指摘する。
 キャリアカウンセラーが業者からの派遣である例も多く、早ければ1年で交代することもある。日本社会にとっての外国人材の必要性や、大学の重要な出口戦略としての就職支援を考えるならば、専門職としてのキャリアカウンセラーを常駐させるべきであり、時給制のアルバイトや非常勤としてではなくきちんとした待遇を整えるべきだと指摘する。今のままでは、留学生のキャリア支援について、大学ごとにノウハウが蓄積されず、担当者が変わるごとに、また一から同じことを繰り返すことになりかねない。
 
支援のあり方
 留学生が就職活動で苦戦することを要約すると、「日本独特の就職活動についての知識がない」ことである。これについて、留学生達に伝えて理解させるのは、留学生を受け入れた学校側の責務である。キャリアセンターの掲示板に情報を掲示したり、メールで告知するだけでは、なかなかその重要性は伝わらない。国際交流・国際課など留学生担当窓口との連携、担当教諭との連携、個別の電話連絡など、留学生達には更に2、3アクションプラスしなくてはならない。多くの学校では、キャリアセンターの担当者の熱意いかんに左右される部分が多く、熱心に留学生に働きかけて支援する流れができても、担当者の異動によって、その熱意ややり方が引き継がれないケースが多くみられるという。

 谷川氏は、「留学生がみな参加する入学ガイダンスなどで、キャリアセンター担当者が日本の就活についてきちんと伝えるべき」だと話す。

 留学生支援のきっかけ

谷川氏

 谷川氏が留学生支援に携わるようになったきっかけとは何か。
 働き盛りの40代前半、不慮の事故により障害が残り、これまでと同じ仕事ができなくなった。家族を持つ立場で、言葉では言い表せない心境を幾度となく通過した。そんな中で、親身に率直な助言をくれる医師、進学した大学院での年下の同級生たち、こうした人との出会いと自らの前向きな行動によって、再度就職の道が拓かれたという。ちょうど「キャリア教育」が注目され、厚生労働大臣認定キャリアコンサルタント養成講座ができた時期で、国家資格に合格し、キャリアカウンセラーの道を進むことになった。
 
 谷川氏は「運命のような必然のようなかたちで今のところまで来ているように感じる」という。
 
 人の持つ能力について平均をとった時に、たとえ一部分では平均を下回っていたり、弱点と思える部分があったとしても、それを補って余りある長所や強みがあれば、その人が役に立てる・その人を必要とする場所が必ずあるのではないだろうか。

 画一的な採用方法でふるいにかけられて落とされる留学生たちの相談を受けながら、谷川氏は自身のこれまでを想っているのかもしれない。

 谷川氏が過去15年でキャリアカウンセリングをしてきた外国人・留学生の延べ数は約1万3000人(2021年3月時点)にのぼる。元留学生の結婚式に呼ばれることも少なくないという。多くの外国人から慕われるのは、心からその人の事を想い、親身に適切なカウンセリングをしてきた証であろう。

就職活動中の留学生の皆さんへ

①日本でどのように働くか、自分の考えを明確にする。コピペした内容ではなく、自分の言葉で自分の経験やそこから得たことをしっかり伝えることが大事。
②一人で孤独に悩まずに相談をする。人とのつながりを持つ。大学や公的機関を活用して相談しながら問題解決していくことは、就職活動だけでなく、将来仕事をする上でも役に立つ。
③体力・健康面も大事。昼夜逆転している人は生活リズムを整えて、よく食べてしっかり休むこと。


<こぼれ話>

京都の中小企業A社の事例
電設関連事業を手掛ける30名あまりの中小企業だったが、クライアントの多くが海外企業となる中で、英語ができる人材を育てることが死活問題となった。経営者と人事担当者とで重要課題であるとの認識を共有し、採用を見越して、外国人留学生の実態を勉強するために、人事担当者が定期的に京都府国際センターに熱心に足を運んだ。それが縁で、英語ができ、かつ母国で電設関係の資格を取っていたトルコ人女性(Bさん)を採用することができた。彼女は、日本語学校に在籍しながら就職活動をしていたが、なかなか内定が取れず、諦めて帰国を考え、谷川氏に相談に来ているところだった。

A社は、在留資格等の手続き(在留資格認定証明書交付申請)のために、会社を挙げて手続きに協力し、晴れてBさんを社員として迎えることができた。しかし、Bさんは、入社後、会社に女性設備がないことや女性専用の更衣室がないことに驚き、社長に「これはおかしいです!」とはっきりと抗議した。A社はそれまでに女性社員は数名だけしかおらず、その女子社員は設備や更衣室は時間差で利用したりと、我慢しながら過ごしていた。Bさんの入社を機に、新たに女性社員の設備と更衣室が作られることになった。その後、Bさんにつづいて、ロシアやハンガリーの社員も採用することとなった。

「グローバル」という言葉とは無縁と思われた中小企業が、外国人材の活躍が死活問題であると認識し、経営者が腹をくくって採用に動き出し、採用後も定着して活躍してもらうための試行錯誤と環境整備を進めた。今では、社員や社員の家族が、トルコやロシア、ハンガリーを身近に感じ、トルコの文化や語学に興味をもったり、「みんなでトルコ・ロシア・ハンガリー旅行に行きたいね」と話すようになった。外国人社員の入社を機に、これまで一部の人が我慢し、問題視されていなかったことが指摘されて、皆がより働きやすい社内環境に改善されていった。

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