Top向学新聞2019年6月1日号 特集 アフリカ>免疫力の強化に挑む 順天堂大学国際教養学部 教授 ニヨンサバ フランソワ氏

 
免疫力の強化に挑む
 
~感染症克服のための提言~
 


ニヨンサバ フランソワ 氏

順天堂大学 教授
国際教養学部 グローバルヘルスサービス領域
大学院医学研究科 アトピー疾患研究センター



抗菌タンパク質を薬に


貧困克服はまず教育から


<ニヨンサバ  フランソワ>
ルワンダ生まれ。2003年順天堂大学大学院博士課程生化学第二講座修了。その後、順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター助手、講師、准教授。2015年順天堂大学国際教養学部先任准教授をへて、2017年より同教授、現職。

ニヨンサバ フランソワ 氏


 ルワンダ出身のニヨンサバ氏は、病原菌から体を守る抗菌タンパク質に着目し、将来的には安価で強力な薬の開発につなげるべく研究を続けている。いっぽうで途上国の感染症問題の克服には教育の強化が必要であると訴える。


 
皮膚には数百種の抗菌タンパク質

――まずは先生のご専門である免疫の研究について教えてください。

 免疫は、体に侵入したウィルスや細菌などの病原体、がん細胞などを認識し、排除して体を守る仕組みです。特に私が注目したのは皮膚の免疫作用です。皮膚は一番大きな臓器であり私たちの体を守る一番大きな壁です。病原菌がまずぶつかる皮膚がどうやって働いて体を守っているのかに注目しています。
 具体的には「抗菌タンパク質の免疫調節機能」がテーマになります。抗菌タンパク質は私たちの体内に自然に存在して、抗菌物質のような働きをしています。抗菌物質は通常は体内でバランスを保って存在していますが、例えば感染症になると急に量がふえて体を守ります。私が皮膚に注目したのは、そのような働きをする抗菌タンパク質が皮膚の中だけで数百種類も存在しているからで、これは非常にホットな研究課題になっています。
 病気のときに抗菌タンパク質をどうやって刺激し誘導すれば私たちの免疫を強くできるか、といった研究もしています。将来的には抗菌タンパク質の濃度調節によって様々な病気と戦える可能性があります。私の最終的な夢は、そのような抗菌タンパク質を安価で強力な薬として開発することです。

――国際教養学部に所属されていますが、そちらではどういった内容を教えていらっしゃるのでしょうか。

 国際教養学部では、多言語を話せるとともに医学の知識を持ち、将来的に医療従事者のサポーターやヘルスプロモーターとして働くことができるような人材の育成を目指しています。ここで私は三大感染症といわれるエイズ、結核、マラリアと私たちの免疫の仕組みについて最も力を入れて教えています。三大感染症は発展途上国で最も多く人の命を奪っている病気ですが、一部の抗菌タンパク質はこれらの病気にも効くのです。

――免疫力を上げることで死亡率を下げられると。

 感染症による死亡率を下げるには様々な要素が必要です。例えば蚊帳や予防薬を使えばある程度マラリアの予防ができますが、そういった環境作りのサポートも含めた三大感染症の軽減をグローバルヘルスの側面から目指しています。
 例えば途上国ではお金がないので医者にかかれませんし、病院の数も少なく、医療が充実していません。最もひどいのはお金がないので学校に行けず、教育が不十分なので病気に対する予防の知識がないことです。
 私がもっと力を入れたいのは、教育です。教育さえあればそれらの病気の予防方法がわかり、仕事も見つけられ、仕事があればお金が入ります。お金に余裕があれば病院に行けるし蚊帳も買えます。教育を強くして貧困を抑えれば克服できるだろうと考えています。

――8月には日本でTICAD7が開かれます。医学者そしてアフリカご出身の立場から期待することやご提言があればお願いします。

 今までの会議を見ると、経済のサポートやICTなどには力を入れていますが、医療従事者としては健康関連にはまだそれほど大きく力を入れていないように感じます。
 アフリカでなぜ感染症が多いかといえば、貧困、教育レベルの低さのほか、医療や健康への予算が少ないという政治的要因があります。医者や看護師の教育に投資しない限り病気はなくなりません。まず健康な体をつくってから技術開発などをしたほうがいいと思うので、できればアフリカのリーダーの方たちには健康関連分野にもぜひ力を入れて欲しいです。





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