Top向学新聞トップに聞くグローバル教育の行方>遠藤勝裕氏(日本学生支援機構理事長)×佐々木瑞枝氏(金沢工業大学客員教授)

遠藤勝裕氏(日本学生支援機構理事長)        
×佐々木瑞枝氏(金沢工業大学客員教授)
 


南米諸国から留学生派遣の打診  
世界で高まる日本留学のニーズ

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 外国人留学生に対する奨学金の給付、外国人留学生に関する各種調査など多様な事業を行ってきた日本学生支援機構。「留学生30万人計画」が進行する中、南米やアフリカから日本留学に関する問い合わせが増加しているという。今回は日本学生支援機構の遠藤勝裕理事長に金沢工業大学の佐々木瑞枝客員教授がお話を伺った。


(佐々木) 政府は2020年までに外国人留学生30万人の受け入れ計画を推進しています。日本にとって留学生受け入れの意義とは。

(遠藤) 「留学生30万人計画」は2008年から始動しましたが、現在の留学生数は約13万6000人(2013年)というのが実情です。計画を実現させるためには、日本社会が抱えている問題点を踏まえた上で留学生受け入れの意義を考察しなければいけないでしょう。私は日本銀行で長らく勤務し、その後は証券会社の社長を経て日本学生支援機構(JASSO)に至っています。その過程で日本の将来を考えた結果、①国際化②IT化③少子高齢化④温暖化の4点がキーワードだという結論に至りました。

(佐々木) 四つのキーワードについて、もう少し具体的にご説明いただけませんか。

(遠藤)国際化についてですが、国境を越えた人材流動性が高まっている背景には水平的国際分業の進展があります。世界大戦以後、東西の壁、南北の壁が次第に取り払われていき、今日では日本・世界の人材や企業が世界中で活動しています。この国際分業を支えているのが世界中を繋ぐIT技術です。国際分業とIT技術によりグローバル化の波が日本に押し寄せている一方で、日本国内を見ると少子高齢化の問題を抱えています。そこで人材不足を補う上でも外国人材は貴重な資源で、グローバル化の波をうまく活かすことができるでしょう。
 最後に、地球規模の課題である温暖化対策として再生可能エネルギーの拡大が欠かせません。世界中で先進的な研究が行なわれており、日本が経済・人材のグローバル化を進めることで、先頭をきって温暖化対策に取り組んでいく必要があります。このような大きな枠組みで考えた場合、グローバル社会への適応や世界的課題解決のため、留学生の受け入れが日本にとっていかに重要かが分かります。

(佐々木) なるほど。ではそのような時代的状況を踏まえ、留学生の受け入れ増大には何が必要なのでしょうか。

(遠藤)留学生を増加させるには、経済的支援と教育の質という二つの課題があります。我々が担当している私費外国人留学生への奨学金「文部科学省外国人留学生学習奨励費給付制度」の採用人数は、予算減少の影響によって毎年1000人程度減少しており、平成25年度には約1万1300人となっています。経済的サポートの拡大が重要ですが、日本に留学したい学生のニーズを考慮した教育内容の提供も必要です。

(佐々木) 最近の傾向として、世界のどのような国から日本留学のニーズがあるのでしょうか。

(遠藤)例えば、一昨年にブラジル政府機関から「日本に若者を大量に送りたい」という打診を受けました。ブラジルは現在、2015年までに約10万人の科学技術系の学生を海外留学させる「国境なき科学」計画を推進しています。そこでJASSOがブラジル政府機関と協定を結び同計画において、日本の大学とブラジル人学生の仲介役を担っています。2013年から受け入れを開始して270名のブラジル人学生が学んでいます。そうすると面白い動きがあり、隣国アルゼンチンやチリからも「学生を日本に送りたい」という提案がありました。
 また昨年には、南アフリカ共和国の駐日大使が皇居で親任式を終えた後、その足でJASSOにお越し下さいました。話を聞いてみると、「日本留学試験をサブサハラで実施して欲しい!」というものでした。現在はアジア諸国を中心に海外で日本留学試験を実施していますが、サブサハラでは行なっていません。大使は、「私達がサブサハラの13カ国を束ねており、日本留学に関するイベントが開催されれば、その13カ国全部から学生を集めます!」と提案して下さったのです。この提案には驚きました。今年度の文部科学省新規事業で、サブサハラに事務所を設置し日本留学プロモーションを行なう大学を公募中です。その大学が決まり次第、ぜひ協力関係を築いていきたいと思います。

(佐々木)海外で日本留学の注目度合いが高まっているのですね。

(遠藤) そうですね。JASSOの日本留学ポータルサイト「Gateway to Study in JAPAN」には、日本、中国、韓国、米国などから月間4~6万近くのアクセスがあります。更に日本留学をアピールしたいと思い、今年はJASSO独自主催や他機関との協力も含め、インド、香港、ミャンマー、チェコなど世界14カ国・地域で日本留学フェアを行なう予定です。

(佐々木) それは素晴らしいですね。世界の成長を取り込みたい日本と、経済や人口規模、質の高い高等教育への関心を持つ新興国は良好な関係を築けるはずですよね。

(遠藤) そうですね。これまでお話させて頂いたように、日本の教育を必要とする国が世界中にあるのです。しかし現実的な課題として、留学生受け入れのキャパシティー不足という問題があります。例えば、当初ブラジル政府から少なくとも500人の学生を派遣したいと要望があったのですが、理工系学部で英語の授業を1年間提供できる大学が少なく、学生を十分に受け入れることが出来ていないのです。日本留学へのニーズに応えることが出来ず、チャンスを失ってしまっているのも現状です。だからこそ、国民の財産であるJASSOがもつ人材やネットワークなどを最大限に活かして課題解決と目標実現に尽力したいと思います。

(佐々木) 大変参考になりました。貴重なお話をどうもありがとうございました。
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えんどう かつひろ 1968年早稲田大学政治経済学部卒業後、日本銀行に入行。神戸支店長、電算情報局長等を歴任。2000年日本証券代行株式会社取締役社長、2010年ときわ総合サービス株式会社取締役社長。2011年から現職。



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