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カプセル内視鏡  


管のない錠剤タイプ  将来は治療含め多機能化へ


 今月は、「カプセル内視鏡」を開発したオリンパス株式会社の、井内靖志広報・IR室課長補佐にお話をうかがった。


錠剤タイプの内視鏡


――「カプセル内視鏡」とはどのようなものですか。
 井内 管を挿入する従来の内視鏡とは異なり、患者さんにとって飲みやすい錠剤タイプの内視鏡です。カプセルの大きさは外径1・1㎝、長さ2・6㎝で、カプセル内には撮像機能とバッテリー、通信機能を備えています。スイッチを入れて飲み込むと、LEDが点滅しながら真っ暗なおなかの中を蠕動運動によって進んでいき、1秒間に2回撮影します。撮った画像は無線で体外に送信され、データとして蓄積されていきます。カプセルを飲んでから小腸末端に到達するまでの時間は大体8時間ですから、取り込める画像の量は相当なものです。医師はそれをパソコン上で再生し、撮影した画像を確認することができます。
 現在、カプセル内視鏡は小腸用として治験を行っています。通常の内視鏡であれば、口から入れて食道や胃などを容易に観察でき、大腸も肛門から入れて観察できるのですが、小腸はちょうどその中間にあってどちらからも届きにくいうえに7~8mもある長い器官です。小腸用の内視鏡はあることはありますが、挿入に時間と技術を要するので、一般的に検査しにくい部位と言われています。しかしカプセル内視鏡を使えば、小腸の様子を見ることができると期待できます。


目的に応じ様々な機能持つ


――開発の経緯について。
 井内 もともと弊社は世界で初めて胃カメラの実用化に成功したメーカーです。東大のある医師から「胃の中を写せるような小さなカメラを作れないか」と相談を受け、共同で研究を始めて1950年に実用化しました。当時胃ガンは、塩分の多い食生活を送るからか日本人に多く、国民病ともいわれていました。治療するには、痛くなる前の初期段階で見つけなければなりません。それまでは胃の内部を見る手段はありませんでしたが、胃カメラの登場によって初めて、医師が写真を見て診断できるようになり、胃がんの早期発見・早期治療が可能になったのです。
 その胃カメラから派生したのが現在普及している内視鏡で、医師が体内を直接リアルタイムで見ることができるようになりました。その最大の特徴は見るだけでなく同時に治療もできることです。例えば胃や大腸にポリープが確認されればその場で治療もできるので、患者への負担が非常に少なく、医療費の抑制にもつながります。
 弊社のように胃カメラから出発し、長年内視鏡に携わっていると、小腸のみならず全ての消化管への適用や、見られるだけでは物足りず治療までできてこそ内視鏡だと考えています。カプセル内視鏡は、蠕動運動の流れに任せて動く観察専用のタイプの実用化を目指していますが、将来に向けて、今ある内視鏡に少しでも近づけるための研究も重ねています。例えば、磁気を使って自由におなかの中で動かせる技術や、体液を採取して体外に持ち帰ったり、超音波を使ってもっと奥深い臓器の観察をしたり、さらに、病変部分を見つけたらそこに薬を直接放出する技術などです。
 磁気で自由にカプセル内視鏡をコントロールする技術は、現在東北大学の研究室と共同開発中で、手のひらの上や大腸モデル内での動作はすでに確認しています。さらに、無線で電力を体外から供給して、バッテリー式では限界のあった作動時間を無制限にすることも目指しています。受電回路はバッテリーより小さくなる可能性が高いので、そこに生まれたスペースに薬を放出するための袋を入れることも可能と考えています。
 このようにカプセル内視鏡は、目的に応じて様々な機能を持たせることも可能になると考えています。小さな空間に様々な機能を搭載するには、これまで内視鏡の開発で培ったノウハウが大きく役立ち、この点で弊社はオリジナルとしての強みがあります。内視鏡は既に全世界に広く普及しており、日本発の世界に通用する技術分野の一つです。


予防医学の発展にも貢献


――カプセル内視鏡の普及が社会に与える影響は。
 井内 現在、日本における死亡原因の第1位はやはりガンで、肺ガンが最も多く、次いで胃ガン、大腸ガンの順となっています。以前は最も多かった胃ガンも、最近は減少傾向にあり、内視鏡の普及が貢献していると思っています。
 今では内視鏡も随分と細くなり患者さんにとってかなり楽になったと思います。ただ、そうは言っても、飲み込むとき喉に表面麻酔のためのシロップをためなければなりません。喉の麻酔は違和感があり、それがいやだという方も中にはいらっしゃいますが、カプセル内視鏡ならそのまま飲み込むだけですから、そういった違和感は抑えることができます。飲んだあとは普通に生活していても大丈夫ですから、検査を受ける方も比較的楽だと思います。
 このようなカプセル内視鏡が将来普及し、健康に気をつける方々が気軽に検査を受けられるようになれば、予防医学の発展にも貢献でき、がんの早期発見率も増加して更なる死亡率の低減につながっていくことでしょう。
 なお、冒頭でお話した小腸用のカプセル内視鏡については、今後は治験を経て、2006年度中くらいまでに市場に出せることを目指しています。