Top向学新聞日本で働く留学生OBたち>朱 佳さん


朱 佳 さん(中国出身) 
(日興シティグループ証券株式会社) 


利害抜きの環境での経験が大切
共通点持って人間力の向上を

――日本で働いた印象は。
  日本社会の特徴はまず礼儀正しさであり、そして業務では丁寧な「報・連・相」を求められることです。外国人はこの点が大雑把になりがちなので特に注意すべきです。日本人は予定を立ててそれに従って動きます。一例ですが、ある日本人が3ヶ月前に中国の会社に取材の予約を入れました。しかし直前に予約を取り消され、「それでは困る」といっても中国側は「仕方ない」といってらちがあかなかったというのです。これは習慣や物事の考え方、ビジネス文化が根本的に異なるからです。「郷に入りては郷に従え」といわれるように、日本では日本、外国では外国の思考のスイッチにそのつど切り替えなければなりません。
  しかし、日本で働いているからといって、日本人に仲良くしてもらおうとして無理に自分を日本人にしようとは思わないことです。日本人にはない新鮮な視点を提供することができるのが外国人の強みなのです。外国人は日本人みなが知っていることでも知らない場合がありますが、日本人が海外の話を聞きたいという場合には、その国出身の外国人に聞くのが一番良い方法です。なぜなら単なる伝聞知識ではなく、経験と見識をもとにその国のことを紹介することができるからです。日本企業はこのような留学生人材の特性をよく知って活用すべきです。
  努力すべきですが、今の私はまだ日本人のようにきれいな日本語は話せません。しかし日本人には絶対話せない「少し外国語なまりが入った日本語」を話すことができます。留学生は自己のアイデンティティーをよく認識し、変えられるものは努力して変える、変えられないものには慣れるというふうに区別して考えることが必要です。
  また、これは社会人になって強く感じることですが、学生時代にしか経験できないことはぜひ経験しておくべきだということです。私費留学生の場合勉強だけでなくアルバイトにも多くの時間を割かなければなりません。私はそれゆえ学生時代に経験すべきことをきちんと経験できませんでした。今思えば、大学のサークルに入って日本人といっしょに何かをしたり、共通の趣味を身につけたりすることは非常に大切です。そのような利害を抜きにした環境の中で、ありのままの日本人がどういうものかが分かるのです。留学生は時間を作ってでも、様々な体験をすべきです。例えば貧乏旅行でも良いからとりあえず見識を広げる、あるいは、日本では体育会の先輩後輩関係は非常に厳しいですが、そういう日本社会の一面を経験してみるのも損はないと思います。経験が多いほど人と共通の話題ができ、社会人になってからもスムーズに仕事をすることができます。
  日本では「留学生だから」といって冷たくされることはありません。日本人との人間関係が難しいとすれば、それは日本人と共通のものを意識して培っていない場合がほとんどです。共通点を多く持つことで相手の考え方も理解できるようになり、それが「人間力」の向上につながります。「最近の留学生は個性は豊かだが人間力に欠けている」との指摘も耳にします。経済状況やバックグラウンドなどもありますので一朝一夕に対応できるものではありませんが、だからといってただ論文を書いて卒業するだけで、広い社会を経験しないでいることは、非常にもったいないです。長期休暇のようなまとまった時間が取れるのは学生のうちですから、ぜひそれを有効活用してほしいと思います。