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権 容奭 氏 
(一橋大学大学院法学研究科准教授) 


大学は欧米志向の見直しを  多言語・多文化の許容に発展性

 ――30万人計画は日本文化の積極的発信を掲げています。
 日本の文化力を「売り」にするのはいいと思いますが、日本の大学は欧米の近代学問の輸入に主眼をおいてきましたので、日本研究が充実しているとはいえません。留学生が日本に来ても日本のことをあまり学べないのであれば、来る意味は半減されます。日本研究の充実に加え、「東アジア研究」の拠点になることが日本のブランド力を高める最善の方向だと思います。日本は近代以降、「東西の架け橋」を自認してきましたが、内実は「脱亜入欧米」であり、「西」のことは熱心に学びマネをしても、「東」については知る努力を怠ってきました。いまや大きく変貌した「東」に目を向けることによって、真の意味で「架け橋」になりうるといえるでしょう。この日本の世界システムにおける独特の地位を活かすことこそ、留学生を誘引するソフトパワーになると思います。そのためには、欧米を頂点とした大学やアカデミズムのヒエラルキーに対して、単に上を目指すのではなく、日本独自の基準を設定する必要があります。日本の大学が白人の著名な研究者を招聘することに躍起になっている限り、未来はありません。欧米主導のアカデミズムや世界秩序を理解したうえで、それに日本なりの独自の批判的な観点を示せれば、アジアや非欧米圏、そして欧米のリベラルにとって魅力的なモデルになりうるのです。
 その意味で留学生誘致と大学のグローバル化の方向性が、「英語コース」という発想につながるのには疑問です。これは日本の大学や社会のアイデンティティにかかわる極めて重要な問題だと思います。日本に来て日本語も日本文化も深く学ばないで卒業した留学生が、その後また欧米などに留学しています。そういう足かけにしかすぎない人たちよりも、本当に日本を学んだアジアからの留学生の方が、日本留学派としてのアイデンティティーを持って生きていきます。むしろ日本語を学ぶ機会を増やして丁寧な教育体制を整えるほうが大事だと思います。英語は確かに重要ですが、世界には英語を母語にしない国や地域が圧倒的に多いのです。日本としてはむしろ、世界の「多様性」にこそ目を向けるべきではないでしょうか。大学によっては、英語だけでなくその他の多様な外国語で学べるコースを作っても面白いと思います。これこそ、真のグローバル化であり、日本の学生にとっても魅力的なコースになると思われます。
 現在、日本に来る留学生は圧倒的に中国、韓国、台湾、ASEANなど東アジア出身で、今後もその趨勢は大きく変わらないでしょう。将来的に北朝鮮が加わる可能性もあるでしょう。地域協力体制を構築する上で、これら留学生の果たす役割は甚大です。日本としては欧米主導の秩序への適応に四苦八苦するのではなく、来る東アジア時代、東アジア共同体を見据えた、留学生誘致計画を樹立する必要があるといえるでしょう。


こん・よんそく 
 韓国ソウル市生まれ。一橋大学法学部卒業。同大学院法学研究科修士・博士課程修了(法学博士)。一橋大学大学院法学研究科研究助手、同大学院専任講師を経て、 一橋大学大学院法学研究科准教授、現職。