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向学新聞2025年1月号目次>留学生の就職支援 第14回 対談⑬ 中小企業と学生は、どうすれば知り合えるのか
<向学新聞2025年1月号記事より>
留学生の就職支援
留学生の就職支援 第14回
対談⑬ 「中小企業と学生は、どうすれば知り合えるのか」
「安心感」はどこから来るか
栗原由加 氏
神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 教授
キャリア教育センター副所長
学生には「自分に合う会社の探し方が分からない」という悩みがある。一方で、中小企業には「自社の魅力の伝え方が分からない」という悩みがある。
学生が会社と出会い、安心感を持ち志望意欲を高めるためには、どのような要素が必要となるのか。今回は、大和建工材株式会社の、武田敏治氏にお話を伺った。 (以下、敬称略)
認定制度を活用する
(栗原)中小企業の悩みとして、人手不足や採用が難しいという話をよく聞きます。一方、外国人留学生の就職活動には、学生が地域の中小企業に応募してみたいと思っていても、良い企業の探し方が分からない、という課題があります。貴社は、昨年9月に「ユースエール認定制度」で認定されました。この制度について教えてください。
(武田)ユースエール認定制度とは、若者の採用・育成に積極的で雇用管理の優良な中小企業を応援する制度で、若者雇用促進法に基づき厚生労働大臣が認定するものです。
ハローワークの学卒部門の方から申請してみないか、とお話をもらったのがきっかけでした。
弊社の採用は、中途をメインにハローワークやIndeedで募集をしていましたが、なかなか応募が集まらない状況でした。弊社の求人票には、「残業ほぼ無し、有給休暇も取れる、給与も毎年少しずつ増加」等と書いていますが、それを見て入社した弊社の社員に聞いてみると、ほとんどが「嘘かもしれないと思ったが、話だけでも聞いてみようか、と応募した。実際に入社したらホワイト企業だった」と言います。
このようなことですから、自社から発する情報だけではなく、第三者、特に公的機関からの評価があると、信用していただきやすいです。また、学生にとっても企業選びの時にこのような基準があることは安心につながると思います。
昨年10月にハローワーク主催の就職フェアに参加した際には、35社中4社がユースエール認定を取った企業でしたが、とても目立つように PRしてもらえました。お陰様で、このイベントから2名が会社見学に申し込んでくれて、採用が決まりました。
兵庫県の企業は約13万社ですがユースエール認定を取っているのはまだ43社(2024年12月17日時点)です。就職フェアに来た学校の先生も知らなかったので、まだこの制度は知られていないところが多いようです。
社長が自ら話す
(栗原)私の指導学生にも多いのですが、地元の中小企業で働きたいという意識が強い学生は、今住んでいる場所から通える範囲に職場があって、知り合いがいて、社長と気軽に話ができるような会社を安心だと感じます。学生が社長の話を聞ける機会が多いと良いと思いますが、どうでしょうか。
(武田)中小企業の勉強会でも、「中小企業の採用は社長が出て行った方が良い」ということを耳にします。新卒採用が上手くいっているところは、社長自身がプレゼンに出ているケースも多いです。
(栗原)例えば、「未経験者歓迎」という表現ひとつ取っても、教員や学生には、結構分からないことが多いのです。武田社長は、文系学生がエンジニアに応募することについてはどのように思いますか。
(武田)全然問題ないです。私は新卒では銀行で働きましたが、同期には京大で橋の研究をしていたような理工系の人もいました。企業の中でも、モノを作る人、買ってくれる人を見つけて売る人、が必要で、それぞれの仕事に合った方、いろいろな方が必要です。特に日本では、入社してから仕事を学びますから。
(栗原)
学生の場合、「未経験者歓迎」とあっても、「専門が近い人が受かるのだろう」と思います。経営者からはっきりとこのような話を聞くと、説得力があります。
(武田)学生が、自分で応募のハードルを高くしていることもありそうですね。
(栗原)社長から直接お話を聞いて、会社を動かしている人の考え、お人柄を知ることは、学生がその会社を志望する重要な動機になります。採用選考などのずっと手前の段階として、学生が1~2年のうちから企業と知り合いになる方法があると良いのですが。
(武田)弊社は尼崎工業会や商工会議所に所属していますが、そこでも「人が足りない」という話が出ます。商工会議所などで知り合う機会があればいいなと思います。大学に呼んでいただく場合は、中小企業ですと、 1社よりは、知り合いの企業数社で行くほうが話しやすいと思います。「どのような人を求めているかを話してほしい」ぐらいの、リラックスした雰囲気であれば、話しやすいです。
「回数」を重ねる
(武田)採用側としては、学生がどのように考えて仕事を探しているのかを知りたいという思いがあります。経営者の50代~60代の考えとギャップがあるのではないかと。昔とは違う、と言われる一方で、「若者気質」「若手の就職観」というのも、ステレオタイプではくくれない、多様になってきているということも聞きます。
(栗原)おっしゃる通りだと思います。今の学生の気質についても、仕事の探し方についても、大まかに「こうだ」と言われることがありますが、そこに当てはまらない学生も多数います。学校側も、そのような学生については、あまり把握できていないように思います。学校と企業との関係づくりも課題ですね。年に1~2回顔を合わせるぐらいでは、なかなか関係が深まらなかったり、社内の雰囲気や経営者のお人柄までは分からなかったりします。
(武田)そうですね。私は、知り合って「人間関係」ができるためには、1回の時間の長さより、「回数」が必要だと思います。その点、何回か会うインターンシップは良いですね。

(栗原)今年、本学の留学生のインターンシップを貴社で受け入れていただきました。学生の専攻は日本語なので、学生たちも、最初はエンジニアの仕事は難しいのではないかという心配があったようですが、4回5回と訪問回数を重ねるうちに、高い技術を尊敬する思いが芽生え、「研磨の高い技術が~」「引っ張り試験が~」と、熱心に話すようになりました。今回、インターンシップ生の受け入れは初めてだったと伺いましたが、お願いすると即決してくださって、有難かったです
(武田)私は、もともと新しいことはやってみたいタチです。これから大卒の新卒採用もやっていきたいとちょうど思っていたところです。トンネルの中は真っ暗でも、前に進めば光が見えてくるでしょう。前に進まないと、トンネルから出てみないと、先に何があるか分かりませんから。
(栗原)学生も、やってみなければ何も分かりません。実際に会社に行って一緒に過ごし、名前を覚えてもらって仲間に入れてもらうことで、仕事への姿勢や技術に尊敬の気持ちを持ちますし、チームで仕事をする楽しさも学びます。
貴社のインターンシップでお世話になった学生達にとって、一緒にお昼ご飯を食べたり、アイスクリームを買ってもらったりしたことも、印象深い経験だったようです。学生は自分の経験を回りに話すので、貴社は、私の指導学生たちの間で、すでに有名企業になっています。
・留学生の就職支援
第1回「現場から見える課題」
第2回 企業の視点、大学の視点 対談①
第3回 「仕事ができる人」とは? 対談②
第4回 対談③在留資格の注意点
第5回 対談④キャリア相談とは
第6回 対談⑤留学生の情報源
第7回 対談⑥重視する点は知識ではなく、培ってきたこと
第8回 対談⑦地域連携の中での留学生支援
第9回 対談⑧インクルージョンについて考える
第10回 対談⑨中小企業のマッチング
第11回 対談⑩製造業の人手不足
第12回 対談⑪外国人の定住
第13回 対談⑫社員視点での職場環境づくり
第14回 対談⑬中小企業と学生は、どうすれば知り合えるのか
向学新聞2025年1月号目次>留学生の就職支援 第14回 対談⑬ 社員視点での職場環境づくり
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