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向学新聞2025年4月号目次>留学生の就職支援 第15回 対談⑭ 外国人社員の労働環境

向学新聞2025年4月号記事より>

留学生の就職支援 第15回 
対談⑭ 「外国人社員の労働環境 」
社内の多国籍化と働きやすい職場づくり

栗原由加 氏

栗原由加 氏
神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 教授
キャリア教育センター副所長

藤谷侑 氏

藤谷侑 氏
神戸鈑金工業株式会社 取締役

◆神戸鈑金工業株式会社
1944年創設、兵庫県高砂市に本社を置く薄板板金加工メーカー。中国に2拠点、広島に3拠点を構える。
2024年ひょうご仕事と生活の調和推進企業、2025年ひょうご産業SDGs認証企業(アドバンストステージ)

外国人材の活躍のため、外国人材の働く環境整備の必要性が指摘されている。早くから多くの外国人材を雇用してきた、神戸鈑金工業の藤谷氏にお話を伺った。(以下、敬称略)

社内の多国籍化

(栗原)御社では、多くの外国人社員が働いていますね。現在の社員数などについて教えてください。

(藤谷)概況として、当社は派遣社員を除く直接雇用の社員が280名で、そのうち121名が外国籍人材です。在留資格別では、特定技能が35名、技能実習生が78名、高度人材(在留資格「技術・人文知識・国際業務」や「高度専門職」の人材)が8名です。ベトナム人が多いですが、高度人材にはインド人の社員もいます。また、特定技能・技能実習生では、最近はインドネシアやミャンマーの人材も採用し始めました。

(栗原)インドネシアやミャンマーの人材も採用し始めた経緯を教えてください。

(藤谷)円安などの影響もあり、ベトナムからは実習生が来なくなってきています。また、一か国に集中しないほうが良いという考えから、インドネシアやミャンマーの人材も採用することにしました。タイも少子高齢化が進んでいるようで、先日訪問したタイの工場でもミャンマー人が働いていましたね。

言葉について

(栗原)職場が多国籍化すると、言葉の問題がありますね。

(藤谷)技能実習や特定技能人材は、限られた期間で活躍することを前提としていて、人が入れ替わるので、そのためのマニュアル作りが必要となります。最近まで、外国人材のほとんどがベトナム人だったので、経営指針やマニュアルなどをベトナム語翻訳し、ベトナム語で読める環境が整っています。これからインドネシアやミャンマー人材も増えて多国籍化した際に、やはりマニュアルや現場の表記は日本語を基本とする必要が出てくると思います。

(栗原)仕事をする上では、どのようなことが課題になりますか。

(藤谷)日本語の習得ですね。当社では、ベトナム人材が多く在籍しているため、ベトナム人同士ではベトナム語で会話をします。ベトナム語のマニュアルもそろっていますので、日本語を頑張って習得する必要性を感じていない社員が一定数いますが、現場の安全性を保つためにも、仕事のパフォーマンスを上げるためにも、日本語能力の向上は必要不可欠です。厚生労働省の統計で、技能実習や特定技能人材の労災発生率が高いことが分かっていますが、これは日本語能力が大きく影響していると思います。当社では、技能実習生として働いた後で特定技能に切り替えて働き続けたいと思う社員も多いのですが、会社としては、一定の日本語レベルをクリアするという規定を作る必要性を感じています。社員の成長を促すためのルール作りです。また、日本語能力試験に合格したら昇給につながる仕組みもあります。受験料の補助もして、能力向上を応援しています。

(栗原)
学生の場合、「未経験者歓迎」とあっても、「専門が近い人が受かるのだろう」と思います。経営者からはっきりとこのような話を聞くと、説得力があります。

ベトナム語表記 

日本語勉強会

職場環境について

(栗原)職場環境については、どうでしょうか。外国人も働きやすい職場にするために、何か工夫をされていますか。

月次確認事項

(藤谷)昨年からの新しい試みとして、委員会活動の一つとして、「グローバル委員会」を設置しました。外国人材が働きやすい職場づくりをすることが目的で、高度人材の社員で構成されています。まずは外国人材の声を聞くために、意見箱を設置しました。職場環境の満足度や、気になることなど、寄せられた意見をまとめて、考察しました。職場の多国籍化に伴って、イスラム教の方が職場にいる場合、プレイルームが必要か、災害時用の備蓄の中にハラル対応食品も必要か、など、新たに検討する事も出てきています。課題が出てきたら、その都度対応していきます。また、月一回のペースで、雇用・労務関連の事柄の継続的な見直しも行っています(右図)。

(栗原)職場環境の変化に合わせて、新しい検討や対策を行っているのですね。

(藤谷)労務管理は、経営者にとっての最重要事項だと思っているので、丁寧に取り組んでいます。パワハラがあるような環境では、人が来なくなります。現在当社では、マネジメントに関わる立場の社員は日本人が多いのですが、現場で働く外国人材なくしては、生産活動が成り立ちません。外国人材が、技能実習生から特定技能になり、そのようなメンバーから班長や課長になる人材も育ってほしいと、いつも思っています。意欲ある人材が成長できるような働きやすい環境づくりをしていきたいです。

また、モチベーションアップにつながるような企画も実施しています。技能大会を実施して、技術習得に努力している社員を表彰しています。特定技能人材が優勝したこともありました。

福利厚生について

(栗原)福利厚生については、どうですか。

(藤谷)福利厚生の充実にも力を入れています。歓迎パーティーをしたり、皆で旅行に行く行事を定期的に実施しています。特に、育児休業には力を入れています。当社では、最近、産休・育休を取得する社員が多くなっています。また高度人材は入社して2~3年で結婚して、女性が育児休業を取るケースが一般的に多いと聞いております。喜ばしいことではあるので、対応できる強さを備えておくべきだと感じます。父親にも、パパ育休の制度があり、取得する権利があることをきちんと伝えます。長い目で見た時に、人材獲得の面で、人材側の権利を保障することが大切だと思います。

今後、製造業での外国人雇用は当たり前になり、多国籍化や育休取得への対応も当たり前になると思います。とはいえ、福利厚生を充実させようとすると、最初はコストが上がります。一方で、コストをかけることで定着率が上がり、離職した者を補うための採用コストがかからないというメリットがあります。会社側と社員側の双方がWin-Winになるように、時代の変化を先取りして、経営に取り組むことの必要性を感じています。

実習生旅行



・留学生の就職支援
 第1回「現場から見える課題」
 第2回 企業の視点、大学の視点 対談①
 第3回 「仕事ができる人」とは? 対談② 
 第4回 対談③在留資格の注意点
 第5回 対談④キャリア相談とは
 第6回 対談⑤留学生の情報源
 第7回 対談⑥重視する点は知識ではなく、培ってきたこと
 第8回 対談⑦地域連携の中での留学生支援
 第9回 対談⑧インクルージョンについて考える
 第10回 対談⑨中小企業のマッチング
 第11回 対談⑩製造業の人手不足
 第12回 対談⑪外国人の定住
 第13回 対談⑫社員視点での職場環境づくり
 第14回 対談⑬中小企業と学生は、どうすれば知り合えるのか
 第15回 対談⑭外国人社員の労働環境」
 第16回 対談⑮外国人労働者が働く仕組みを整える
 

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