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向学新聞2025年7月号記事より>

【留学生の就職支援第16回 対談⑮】 ×【省庁担当者に聞く】

外国人労働者が働く仕組みを整える

栗原由加 氏

栗原由加 氏
神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 教授
キャリア教育センター副所長

川口俊徳 氏

川口俊徳 氏
厚生労働省 職業安定局 外国人雇用対策課長
(所属、肩書はインタビュー当時のもの)

外国人労働者数が過去最高の約230万人(令和6年10月末時点)となった。育成就労制度の施行開始で、さらなる増加が予想される。制度設計にも関わり、外国人雇用対策を担う、厚生労働省外国人雇用対策課長の川口俊徳氏にお話を伺った。(以下、敬称略)

適正な受入れと働きやすい環境整備

外国人労働者受入れの方向性

(栗原)育成就労制度の創設や特定技能の分野拡大など、外国人労働者の受入れの新しい仕組みが整備されつつあります。厚労省としての方向性について、教えてください。

(川口)外国人雇用対策の基本は、シンプルに言えば「事業主に、日本人も外国人についても日本の労働法を守ってもらう」ということです。それに加えて、育成就労(現・技能実習)では、外国人を雇用する事業主が守るべき基準があり、厚労省は、共管する出入国在留管理庁と連携して指導・監督を行っています。

厚労省はどちらかというと「国内労働市場に悪影響が及ばないように」として安易な外国人労働者受入れへのブレーキをかける役目が強かったと思いますが、深刻な人手不足が今後も続くことが予想されるため、全体としては外国人労働者を受入れていく方向になっていきます。その中で「適切な」外国人材受入れとなるよう、取り組んでいきます。

(栗原)留意すべき点には、どのようなことがあるでしょうか。

(川口)景気は良い時も悪い時もあります。育成就労や特定技能外国人の受入れが今後とも進むと思いますが、安易に、又は急激に受入れることは予期せぬ問題も起こります。受入分野の技能水準や受入企業の要件などをよく議論し、適正な形で受入れるのが大切だと思います。

人手不足に悩む業界や業所管省庁から、新たな受入分野や受入見込数拡大の要望も出ますが、外国人を多く受入れると、そこに依存してしまい、その産業で進めてきた機械化・省人化の取組を遅らせてしまうかもしれません。そうならないように、状況を見ながら適正な外国人労働者の受入れを進めていくことが必要でしょう。

外国人留学生の就職への影響

(栗原)留学生の就職については、どうでしょうか。

(川口)高等教育機関を卒業して日本での就職を希望する留学生の中で、就職できる人の割合が四十数%だという調査結果がありますね。

(栗原)教育現場での感覚ですが、卒業後も日本にいたいと考える留学生は、データ以上に多いと感じています。日本で就職する留学生も増えています。また、従来は留学生の日本での就職が難しい理由として、日本の就職活動の方法が母国と異なることや、留学生を採用する企業が少ないことが挙げられることが多かったのですが、最近では日本語力の問題もあります。ネパール、バングラデシュ、スリランカなどの南アジアからの留学生が増えていて、専門学校に進学するケースが多いのですが、卒業時の日本語力の問題で、就職活動で苦労すると聞きます。

(川口)就職希望の留学生で半数が就職できないという一方で、ハローワークに来る外国人は、どちらかというと定住者など長く日本にいる方が多く、ハローワークを活用する留学生がまだ必ずしも多くないと思っています。
留学生の多くは在留資格「技術・人文知識・国際業務」(以下、「技・人・国」)で働くことを目指している中、在留資格「特定技能」で働くことについて抵抗があるようですが・・・。

(栗原)
バックグラウンドや日本語力によって、「特定技能」で働くことを希望する留学生は一定数いますので、留学生が「特定技能」で働く選択肢を想定しておくことは、現実的なことです。ただ、「特定技能」で働く場合は、就職するまでの手続きが「技・人・国」で働く場合と全く異なるので、就職支援も、従来のような日本人と同じ方法で就職活動をするための支援だけではなく、「特定技能」での就労を前提とした支援ができる仕組みが必要になります。教育機関側にも知識が必要ですし、教育機関から支援機関にスムーズにつなぐ方法や、サポートの内容も整える必要があると思います。

(川口)そのような留学生に向けて、特定技能で働ける企業側の求人を確保しておく必要がありますね。制度としては、在留資格「特定活動(特定技能1号への移行を希望する場合)」を活用する方法もあります。留学生を適した職場にマッチングできるよう、サポートする努力も続けていきますので、ぜひハローワークを活用して欲しいと思います。

外国人労働者のキャリア

(栗原)育成就労から特定技能という制度が整うと、長期的に日本でキャリアを積む道の選択肢が増えます。留学生の就職についても、「定着」というテーマが議論されるようになっています。日本で働く外国人労働者のキャリアについては、どのように考えますか。

(川口)外国人労働者の中にも、長期的なキャリアアップを希望して技術力を高めたいと考える人もいれば、数年間で少しでも多くのお金を稼ぎたいと考える人もいます。

厚労省として何ができるかというと、育成就労や特定技能制度などで安心して働ける仕組みを作ったり、外国人労働者も対象にした職業訓練コースを用意したりして、技能を高めていきたい人にはキャリアップできる制度を整えることかと思います。

長く働いてもらえるような環境整備も大切です。この点では、三ヵ年事業の「外国人労働者雇用労務責任者講習」が3年目に入り、4月からはオンラインでも受講できるようになっています。本事業は、外国人労働者を受入れる事業所職員を対象とした講習で、外国人雇用にかかわる労働法や入管法、異文化コミュニケーションについて、基礎的な知識を得て理解を深めてもらう内容です。受入企業側が法令上の「落とし穴」だけでなく文化・背景の異なる外国人労働者と交流する上での「落とし穴」について必要な知識を深めることは、そこで働く外国人の方の働きやすさにつながることだと思います。



・留学生の就職支援
 第1回「現場から見える課題」
 第2回 企業の視点、大学の視点 対談①
 第3回 「仕事ができる人」とは? 対談② 
 第4回 対談③在留資格の注意点
 第5回 対談④キャリア相談とは
 第6回 対談⑤留学生の情報源
 第7回 対談⑥重視する点は知識ではなく、培ってきたこと
 第8回 対談⑦地域連携の中での留学生支援
 第9回 対談⑧インクルージョンについて考える
 第10回 対談⑨中小企業のマッチング
 第11回 対談⑩製造業の人手不足
 第12回 対談⑪外国人の定住
 第13回 対談⑫社員視点での職場環境づくり
 第14回 対談⑬中小企業と学生は、どうすれば知り合えるのか
 第15回 対談⑭外国人社員の労働環境」
 

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