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<専門家に聞く>外国人の受入れ 日本の現在地

好機を活かし、前向きな議論を

日本の移民ついての関心が高まっている。今回は、人口問題における、とりわけ人の国際的な移動についての専門家である、是川夕氏にお話を伺った。

◆日本の現状

―現在の日本の人口について

現在の日本は、ほとんどの先進諸国がそうであるように、多産多死から少産少死の時代になり、人口減少の局面を迎えています。今後、自然増だけで人口維持できる国は先進国ではありません。人口を決めるものとして、出産、死亡、移動の3つ要素がありますが、人口減少の現代社会では、人の移動がより大きな意味を持つようになっています。

―日本の外国人受入れの現状は、他の先進諸国と比べてどのような特徴がありますか。

結論から言うと、日本の移民受け入れは、現在とても良い形で機能しています。
細かく見ると、制度の面ではとてもオープンです。日本で働きたい外国人が、日本国内企業から採用内定をもらえば、在留資格が取得でき、日本で働くことができます。しかし、そのハードルはとても高いです。日本企業が内定を出すということは、日本語力はもちろん、人物面や文化適応度も含め、会社に貢献することが見込めるということなので、簡単ではないことが分かります。高いハードルを越えられる能力のある人から見ればオープンな制度で、一方でそのレベルに達さない人にとっては閉鎖的な国とも言えます。

是川 夕 

是川 夕 氏
国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部 部長

現在、この高いハードルを越えてでも日本にきたいと考えるアジアの若者が増えています。これは、アジア諸国が経済的に成長し、中間層が増えていることが大きく影響しています。高卒以上の中間層の若者が、自分の人生をより良くしたいと考えた時に、日本を選んでくることが多いようです。

―欧米では移民政策がうまくいっていない事例が見受けられます。日本でも、移民受入れには様々な意見があります。

移民と一言でいっても、日本と欧米とは来ている移民の層が異なります。欧米では、移民にとってのレイバーチャネル(労働を目的とした移住経路)が狭く、そこに入れない人達が、「家族、人道、非正規滞在」といった形で入国するケースが多いです。多くの場合、旧植民地と宗主国の関係で、仕事が決まっていなくても入国できる状況があります。仕事以外で入国した移民たちが問題となり、移民政策の信頼度を下げている状況です。

一方現在の日本は、純粋に労働移住としての性質が強く、雇用契約があって入国し、契約が終われば帰る、というシンプルな仕組みです。レイバーチャネルを大きくとっていて、「家族、人道、非正規滞在」での入国が極めて少数に抑えられています。経済原理が健全に機能していると言えます。

また、島国であることもあり、ボーダーコントロールの技術がとても高く、非正規滞在が少ないです。非正規滞在者数が約7万人という最新の統計がありますが、そのほとんどが、きわめて短期間の内に帰国しています。比率としては外国人全体の2%で、出国までの時間の短さを考えればほぼゼロといえます。欧米諸国のように、オーバーステイの人が何十年も滞在し続けて、全体の1割2割、それ以上いるといった状況とは全く異なります。

私はここ数年、国内外で様々な調査をしていますが、日本に来たいと考えているアジアの若者は、現時点で推計1300万人ほどいます。一方で、日本は今後50年で、人口が約4000万人減ると見込まれています。日本に来たい外国人が全員来たとしても、その4分の1程度にしかなりません。残りの4分の3を、AIの活用や生産性向上によってどれほど補えるかという状況です。生産性向上と、移民の受入れについて、どちらか一方ではなく、両方必要といえます。

―移民の層や受入れ状況が日本と似ている国はありますか。
同じではないですが、広義で似ていると言えば韓国や台湾ですね。アジアの中で中間層が来たがる国です。

◆日本の移民受け入れの歴史

日本にいる外国人の人権に関する基礎的なフレームは、1990年代までにできあがっています。1979年に国際人権規約を批准、81年に難民条約に加入したことで、日本人と同様に外国人の基本的人権を保障することになり、事実それを境に社会保障の多くで国籍は要件となっていません。これらは、国会で議論され、決定されたことです。移民政策という名前ではなかったとしても、このような外国人に関する人権保障の枠組みを整えてきた歴史があることを忘れてはいけません。90年代以降の留学生受入れ政策や労働政策は、そういった基礎的なフレームの上でとられている政策です。

また、フランスにも同様の議論がありますが、国籍による差別をしないことから、国の様々な統計において国籍情報を集めていません。この点は、日本で暮らす外国の方が増える中、図らずも現状把握の解像度を下げることになっているので、今後は国籍情報も集めて統計を取る必要があると思います。日本に定住している外国人の多くが、日本人と同じような生活をしています。暮らしの様々な面で、日本人とほぼ同じであることが数字で明確に分かれば、一部の報道にあるような、「外国人に対するマイナスの印象」という、解像度の低い情報を基にした議論や批判は減るのではないでしょうか。

―より良い政策を進めていくには、どのようなことが必要でしょうか。

今の日本の外国人受入れは、国際的に見てもバランスの良い状況です。アジアの多くの若者から選ばれている状況は、日本にとって喜ばしいことであり、この状況をうまく活用していけば、人が行き来するアジアの中心的立場で、日本が繁栄していく道があると思います。

特定のエピソードが繰り返し報道されることで、外国人に対するイメージが偏ってしまうと、現状認識が正しくなされません。せっかく良い状態になっているにもかかわらず、不確かな現状認識を基に議論が進むと、日本にとってマイナスな方向に進みかねません。問題が起きた場合は、それがどの程度のものなのかを正確に認識し、必要に応じて改正していく部分だと思います。

移民政策についての議論は難しい面があります。個人的には、こうした時には原理原則に立ち返ることが大切で、基本的人権の尊重といった、憲法の前文に書かれているような目標を再確認していく必要があります。そのための方法は様々にあります。政策というのは目標のための手段ですから、移民政策もそのための一つと位置付けて、前向きに議論が進めばよいと思います。

また、外国人は参政権を持たないため、問題が起きた時に当事者の意見が反映しづらいところがあります。ですから、特に注意して客観的に事実や全体像を把握する姿勢が必要になると思います。

―是川さんは世界の様々な国の人の移動について研究しています。このような政策をしたら良いのでは、というアイデアはありますか。

例えば、韓国や台湾とは、大卒であれば自由に行き来できるような仕組みを作ったらよいと思います。最近でもこの三国は文化的にも近く、留学やワーキングホリデーで多くの若者の行き来が増えています。これから繁栄するアジアの中心として、日本が人の行きかうハブの役割ができると思います。最近は学校現場でも海外ルーツの子どもが増えて、若い世代は外国人と一緒に生活することを当たり前のこととしてフラットにとらえる傾向があります。

―是川さんは、学生時代に留学生と寮生活をしていたそうですね。

はい。小規模な学生寮で、様々な国から来た留学生と一緒に過ごしました。相部屋だったマラウィからの留学生は、来日して間もないころは、日本語もまったくわからず、頼りない印象でしたが、1年日本語と受験勉強をして、一流大学に合格しました。卒業後は大手メーカーに就職し、今ではアメリカ法人で管理職をやっています。パワーや向上心のある彼からは、私もたくさんの刺激をもらいました。日本人学生にとっても、留学生から刺激を受けて学ぶことは多いと思います。

 

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