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向学新聞2026年1月号目次>学校現場のD&I
<向学新聞2026年1月号記事より>
学校現場のD&I
東京都立杉並総合高等学校
教務部・英語科・日本語科
上園美弥 氏
外国籍や日本語の指導が必要な生徒を受入れる学校現場では、どのような課題があり、教職員の研修としてはどのような取り組みがされているのか。東京都立杉並総合高等学校の上園美弥氏にお話を伺った。
―杉並総合高等学校では、昨年度から教職員向けにD&I(ダイバーシティ&インクルージョン・多様性と包摂性)についての研修を実施されています。それまでの経緯を教えてください。
本校で在京外国人入試枠が設置されたのは令和2年です。本入試枠で入学した生徒の日本語指導や国語科の取り出し授業については、初めの3年間は東京外国語大学に委託して行っていました。
3年間のパイロット期間が終わり、教職員だけで指導する時期を迎えましたが、校内に中心となる指針やノウハウがありませんでした。そこで、まずは具体的な課題点を把握するため、教職員が何に困っているのかを知るためのアンケートを実施しました。
アンケートには、教科指導、評価の方法、進路指導、保護者対応など、先生方からの本当に多くの具体的な課題点や困っていること、改善案などが寄せられました。
「大学、専門学校、そして就職まで見通した進路指導が必要かもしれない」「担当者の理解と努力で成り立っている」「研修や情報交換、組織としての体制整備が必要」「日本語だけではなく、日本の学校文化理解のためのフォローも必要」などの声があり、何に苦労して指導にあたっているかが浮き彫りとなり、課題が見えてきました。そこで、このアンケート結果を出発点として、次年度の研修内容を組み立てることにしました。

―教職員向けの研修では具体的にどのようなことを行っているのでしょうか。
令和6年度は、5回の研修計画を立案しました。そのうち2回は、企業で研修を行っている外部講師をお招きし、D&Iの基礎、コミュニケーションエラーの事例や、教員同士のロールプレイなどを行いました。ロールプレイは、日本語が不自由な生徒役、教員役、観察者に分かれて面談のシミュレーションをしたり、実際に彼らが授業でどう感じているかを体験しました。また、組織として学校はどうあると良いかを、教員同士で意見交換をしました。考えを共有し合う時間はとても貴重だと感じました。
また、最終回では行政書士の方に在留資格の話をしていただきました。日本学生支援機構の奨学金は、一部の人を除いて家族滞在の人は借りられない、など、具体的に生徒たちにかかわる部分を教えていただきました。
―研修に参加した教職員の方のアンケートでは、どのような感想が寄せられましたか。
「実例を交えた実践的な内容が良かった」「校内でこのような研修があるとありがたい」「企業とは異なり、学校でのインクルーシブは教育的な配慮や教員の負担量、生徒の事情など様々な要素がある点が難しい問題だと感じる」といった感想が寄せられました。
―今年度で2年目となりますが、校内での変化は感じますか。
はい、少しずつですが変化していると感じます。受入れ開始当初は、学校としては特別な配慮はしないという方針だったこともあり、当該生徒たちに対して、特別な配慮はいらないのでは、と感じる教職員もいましたが、今では自主的に配慮し工夫する教員が出てきています。
―課題はありますか。
特に課題なのは教科指導です。理数系が得意でも、日本語の問題で文章題が解けない生徒や、社会科の専門用語や概念(国会、選挙など)が母国の制度と異なり理解できない生徒もいます。また、タブレット端末を使う学習では、読めない漢字を入力できないため、かえって不便さを感じる生徒もいます。
更に、評価の面も難しさがあります。特に外国籍の生徒は、在留資格の面で、就職をして自立した生活を送れるようになることが重要です。そのゴールに向けて教育することを考えると、配慮しながらも本人が力をつけられるように指導する必要があります。
また、教職員はみな忙しいので、研修については全員参加とはいきません。本入試枠を実施している他校との横のつながりもあまり強くなく、学校ごとに使っている教材も異なるので、やはり自分の学校で工夫する部分が大きいです。
―般の生徒たちへの影響はいかがでしょうか。
今年度の新たな取り組みとして、全校生徒を対象とした「多文化共生講演会」を開催しました。「外国語としての日本語」というテーマでしたが、日本語の発音や表記などの難しい部分について、外国人の視点で客観的に捉えてみる内容でした。生徒たちへのアンケートでは、気づきが多かったという感想が目立ちました。
また、在京外国人枠ではなく一般入試で入った外国ルーツの生徒が、以前卒業間近に話してくれたことも印象的でした。「この高校では外国人の生徒が頑張っていたり、いろいろな価値観があるけど仲良くできる環境で、自分の気持ちが楽になり居心地がよかった」と話していました。日本人の生徒が入試の志望動機に「異文化体験ができるから」と書くケースも見られて、多様な背景の生徒がいることが、本校の特色となっていると感じます。同じ教室で多様な背景を持つ生徒と共に学ぶことは、日本人の生徒にとっても、自分の「当たり前」を見直し、視野を広げる貴重な機会になっていると感じます。
―まさにD&Iの教育ですね。
そうですね。文科省は「外国人児童生徒受入れの手引き」の中で外国人児童生徒等の多様性への対応の必要性や、学校現場での持つべき視点や役割について定めています。本校ではまだ新しい取り組みでもあるので、最前線で教職員が抱えている問題意識を共有し、対話しながら少しずつ前に進んでいければと思っています。
―在京外国人等入試枠とは
都立高等学校の入学選抜の一つで、国籍を問わず、日本語指導が必要な生徒で一定の応募資格を満たせば受験することができる。内容は作文と面接など。同入試枠での入学を希望する生徒が近年増えており、学校によっては一般入試よりも倍率が高くなる高校も出てきている。2025年度(令和7年入学)入試から新たに同入試枠を設ける高校が4校増え計12校となった。受け皿拡大が図られている。
写真提供:内定ブリッジ株式会社
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