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ロイ キンシュック 氏 
(日本大学生物資源科学部准教授) 


帰国後の就職に課題点  世界に誇れる日本の職人文化


――日本の留学生政策の課題点は。
  日本で留学生が受けた教育課程を修了後にどの程度活かせるかが問題です。特に、東南アジアの留学生は母国に帰った時、米国や英国の大学を卒業した人のほうが就職では優先されてしまうと感じるようです。せっかく日本で学んでも、母国で優遇されるシステムは何もありません。日本が援助国家としてもっと被援助国家に指導し、元留学生が少しでも優先的に就職できるようにするなら、日本での留学経験を持つ人たちが留学中に学んだ内容をグローバルに展開でき、実質的な交流が生まれるような気がします。
  日本の研究・教育のレベルは決して米国とかけ離れているとは思いません。日本の学者はノーベル賞を毎年のように受けています。しかし留学後の問題が解決されないまま留学生の数だけ増やすのは政策的に問題があるように思います。卒業生が母国に帰って日本に関係した仕事に就き、勉強したことを活かせるチャンスが少しでも増えるならば留学生を援助する意義もあると思います。

――米国の大学と日本の大学の違いは。
  簡単に言えば、国際的にどれほど活動しているかによって大学の知名度は決まります。その活動の度合いを示すために各種業界・学会などがあります。日本ではこのような組織(学会など)はまだ古いスタイルのままで、規模の大きな学会の発表会でも海外から発表しに来る人は非常に少ないです。一方、米国・英国では小規模の学会でも世界各国から人が来て発表しているので、留学生にとっては、魅力的なものになっています。
  また、米国ハーバード大学に来て感じていますが、世界でトップレベルの大学でありながらも、それほど知名度がない地元や国内の他大学との交流が非常に盛んです。毎日のように研究発表会およびシンポジウムがあり、他大学の研究者・教育者が特別講演に招かれます。学生も自由に参加しています。日本では、名門大学(一流大学とも言われている)とその他の大学間ではこのような研究交流は少ないような気がします。イメージの格差がある古い構造は日本国内の各種業界・学会の形に残っており、ほとんどの専門家の組織は名門大学人脈が実権を握っていて、同門へと受け継がれます。
  いっぽう日本の素晴らしさも私は身をもって体験しています。例えば山口大学には非公式のボランティアコミュニティーがあり、毎週日本人学生や夫婦の方がきて留学生に日本語を教えてくれました。私はいまだにその方々との交流が続いております。日本では信頼関係を作るまで少し時間が掛かりますが、一旦それができればより深い交流ができるのです。また、日本では役人や専門家よりも、一般市民や職人、普通の会社員こそが実力をもっており、その真面目さは世界に誇れる文化であると思います。この職人文化を前面に出してアピールすれば、世界各国から人々が自発的に日本に来るでしょう。会社員や職人の見習いとして留学生を募集すれば、非常に実質的な日本との交流になるのではないでしょうか。


ロイ キンシュック 
バングラデシュ農業大学卒。山口大学大学院農学研究科修了、鳥取連合大学院農学研究科博士課程修了。(旧)農業研究センター客員研究員等を経て、2005年日本大学生物資源科学部助教授、現職。2010年1月現在、米国ハーバード大学に研究留学中。


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