Top向学新聞日本で働く留学生OBたち>ルイス ロヨラさん


ルイス ロヨラさん(チリ出身) 
(スキルアップジャパン株式会社) 


専門家こそ現実社会広く見て  「違い」を仕事の中で活かす

――入社にいたる経緯を教えてください。
 電気通信大学に留学経験のある母国の指導教官から奨学金を紹介され、日本留学を決めました。日本語学校と修士課程を経て2004年3月に博士号を取得し、その後日本とドイツで研究員としてプロジェクトに参加し経験を積みました。今勤めている会社はドイツにいたとき知り合いを通じて紹介されたのですが、研究だけでなく開発もしてみたいと思い、魅力を感じて入社しました。

――博士人材の就職は専門性の高さゆえに逆に難しい場合もあると聞きます。
 たしかに、長年研究ばかりして専門家になり現実社会の話が分からなくなることはあると思います。博士課程では5年、6年と延長して研究する人も多く、やっと専門家になっても、研究した技術が経済の流れから取り残されてしまえば人材としては使えません。専門家を目指す人こそ現実社会を広く見て勉強したほうが良いですし、技術を応用できる様々な選択肢を持っておくことが大事です。日本メーカーは中国や韓国を相手に大変な競争を強いられています。技術力が高くても一部を中国や韓国で作る企業も出てきます。専門性を身に付けながらも自分から積極的にアクションを起こしてセミナーなどに参加し、様々なコネクションを作っておくべきです。小さな専門領域のみ勉強していては危ない時代です。

――日本の企業文化について感じることは。
 相手を尊重するところは大きな長所です。日本社会全体にそういう文化の基礎があり、そのうえで企業も動いている点は素晴らしいと思います。時間を守るといった基本的なことが他の方を尊重する姿勢とつながっています。しかし留学せずいきなり日本企業に来た場合は文化のギャップに悩むかもしれません。会社には上司がいて全て組織化され構造化されており、大学のサークルにさえ先輩後輩の関係があります。それらに慣れることができず母国に帰ってしまった人もいます。年上というだけで上司になる年功序列という考え方は一番理解できないものの一つでしょう。
 アメリカの企業文化をみると、常に競争的であらねばならないという一つのパターンが見られます。アップルのような会社はCEOが良い仕事をして常に斬新な製品をリリースしていますが、日本の企業はみな平等に横に並びたがるイメージが強いように思います。アメリカはみんな違っていて良いという文化がありますので、優秀な方が出て来て自分の考えでチャンスをつかみ、良いパートナーと出会って良い会社を作ります。シリコンバレーなどを見てもそういう成功のパターンが見えるのです。
 日本企業は、例えば30年前にはメーカーの製造ラインのプロセス全体を最適化するといったことが得意でした。決まっていることを最も効率よく行う方法を考えるのは上手かもしれません。それは日本が経済成長を遂げた理由の一つだと思います。いっぽうマイクロソフトやグーグル、アップルなどの巨大企業はすべてソフトウェアに強い会社ですが、ソフトの世界は芸術的な創造性があるかどうかで成長が決まってきます。優秀な方の創造性を活かせなければインフラも生まれてきません。その点は日本の産業は少し遅れているのではないかと思います。

――個人の優れた創造性や能力を尊重しフルに発揮できるような社会にしていかないと、外国人材が増えても摩擦が増えるかもしれません。
 ボトルネックになると思いますね。外国出身者は、当然社内の日本人とは違う経験を持っているわけですが、そういう「違い」を仕事の中で活かせるような場面を作るために頑張ることですね。それが会社にとって良いものになればベストです。自分のこれまでの経験は忘れるべきではありません。同僚とコミュニケーションを取る時には自分の母語を教えたりする異文化交流も必要です。日本はこれから外国人が多く入って来ないと経済的にも衰退していきます。みな日本人と同じになっては日本は良い方向に変わりません。異文化のアイディンティティを発揮しないともったいないです。自分が活かされる場がどこかにあるに違いありません。



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