Top向学新聞今月の人マイケル・トリビオさん


マイケル・トリビオさん (フィリピン出身) 
(東京大学大学院修士課程・在日フィリピン留学生協会会長) 


二酸化炭素を石炭に吸着  日本で環境問題に関心持つ

――研究の内容について。
  私の研究室では、石炭に二酸化炭素を吸着させる方法について研究しています。日本は「京都プロトコル」において、温暖化を防ぐために二酸化炭素の排出量を1992年のレベルにまで削減するよう定められており、そのための様々な技術開発が行われています。私たちの研究もこの二酸化炭素削減に大きく貢献するものです。
  もともと石炭の表面にはメタンが吸着していますが、そこに二酸化炭素を圧力をかけて注入すれば二酸化炭素が表面に吸着され、代わりにメタンガスが採取できるのです。つまり、単に二酸化炭素の削減に貢献できるだけでなく、同時に石炭についているメタンガスを採取して使用できるメリットがあり、コストも一番低く抑えることができる方法です。
  他にも二酸化炭素を削減するための方法として、天然ガスと石油を地中から採掘したあとにできる空洞に何年間か二酸化炭素を閉じこめるというやり方もありますが、この場合閉じこめるためのコストがかかりますし、閉じこめたことで他に得られるものもありません。また安全面についても、もし地震などがあった場合に割れ目ができてそこから漏れる可能性があります。ですから現在のところ私が研究している方法が一番良い方法だといわれています。
  日本の場合はほとんどの炭坑が運用コストの高さから閉まっていますが、実はそういう炭鉱内には、まだ採掘できる石炭がたくさん残っています。それらの石炭に二酸化炭素を多く吸着させるにはどうすればよいかを、色々とコンディションを変えて実験しています。どのぐらい効果があるかは石炭の性質によりますから、事前に具体的な実験のデータが必要です。炭坑ごとに自然条件が違いますから、二酸化炭素の吸着にも炭坑ごとの特性があります。
  例えば北海道の赤平炭坑の場合は石炭に多くのメタンが含まれていますので、この技術を使えばたくさんの量が採れるのです。このようにメタンガスが採れる量は石炭によって差が非常に大きいのですが、それがどうして生じるのかはまだはっきりとはわかっていません。石炭は様々な成分を含んでおり、その比率が均一ではないので、元素分析をして成分の組成を見て、それと吸着率の関係を分析しています。この関係はまだ誰も解明しておらず定説がないので、非常に研究しがいのある分野です。
  一方で石炭の組成を調べることも大事なのですが、私の研究の一番の核心は、高圧をかけていったときに生じる二酸化炭素の「超臨界」状態についてです。「超臨界」とは液体でも気体でもない、その間の特殊な状態のことですが、そのようになったときに何が起こるかを調べています。通常石炭は地下800m以上の深さで高圧下にありますから、その実際と同じ状況で実験するべきなのです。しかしそのような実験はほとんど行われておらず、これまでアメリカやドイツなどで実際よりも少し低めの圧力のもとでの実験が行われてきたにすぎませんでした。そのような考えから、高圧下で実験しているグループが私の研究室のほかにも北海道と京都にあるのですが、私のグループはさらに一番実際に近い条件下で実験を行っています。こういった実験自体が少ないので、得られたデータは二酸化炭素の国際学会などで様々な人から注目を集めました。

――環境問題には以前から関心をもっていたのですか。
  フィリピン人と日本人では環境に対する意識が違いますので、日本に来るまでは環境問題への関心はありませんでした。日本に来て初めて環境問題について学び、これは良い研究だと思い興味がわきました。環境への意識は、先進国の人々と非先進国の人々では全然違います。例えばフィリピンでは汚染などは普通に見られますので、それを特に問題だとは思わないのです。先進国では、もともと自然環境がだいぶ異なりますから、きれいな街ができ、経済の発展と共に環境も発展しています。フィリピンにいたときは無理だと考えていましたが、日本に来てからは、技術の発展と美しい環境が共存できることがわかりました。私達は環境を傷つけることなく、進歩的な生活様式を享受することができるのです。

――将来はどうしますか。
  国連のような国際機関に入り、日本で学習した環境に対する意識を母国や途上国の人々に教え、分かち合いたいと思います。