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朱 建栄 氏 
(東洋学園大学人文学部教授) 


日本社会は留学生活用すべき  受け入れに長期的国家戦略必要

 ――日本にとっての留学生受け入れの意義について。
 日本はアジアの先進国として、途上国の人材育成を国際貢献の一つと考えており、対外的なイメージアップという面でも留学生を受け入れる意義は大きいと思います。彼らが長く滞在し日本のよさを感じて帰国すれば、それが日本のPRになるわけです。また、日本への留学生はエリートが多く、母国に戻ったら政治、経済、文化など各界の中枢に入り日本と現地との交流を支えるパイプ役にもなるわけです。したがって、留学生の受け入れは日本にとって大きなプラス面があると理解すべきです。さらに、これからは一方的に留学生を支援してやるのではなく、彼らから様々な異文化を学び、社会自体の風通しをよくして、日本の若者が複合的な思考を持てるように刺激を与えるために、留学生を活用していくべきだと思います。

――グローバル時代において留学生が果たすべき役割、これからの人的交流のあるべき姿について。
 21世紀を迎え、これからはますます国という枠を超えた時代になってきますから、留学生にももっと地域全体や世界を見据えた広い視野をもって欲しいです。環境問題や温暖化問題、メコン川流域の協力問題に代表される地域全体の開発の問題などは、地球規模の展開を今後世界が求めるものです。これらは日本が貢献できる分野ですから、日本人はさらに研究を重ねながら留学生への教育内容を強化し、彼らを国の次元を超えた視野をもてる方向に誘導し支援していくことが必要だと思います。
 また、人的交流については、留学生と日本社会の双方に意識改革が求められていると思います。日本人は留学生に対し、あなたは何々国人、われわれは日本人と考える傾向がありますが、これからは「われわれはみんな同じ人間である」という視点が必要です。留学生に国籍による上下を感じさせないためにも、差別として伝わってしまいやすい表現を日本社会からなくすべきです。基本的に名前で呼び合うことで平等な人間として扱い、「自分が地球人であり地域全体の将来を担う人間だ」と考えるような雰囲気を互いに作っていく必要があります。
&br;――昨年「留学生受け入れ10万人計画」が達成されましたが、日本政府の留学生政策についてどうお考えですか。
 日本はもっと大きな国家戦略の次元で留学生を評価し、彼らの育成を日本の将来像作りに結び付けて考える意識をまずもたなければいけないと思います。そのうえで、10万人計画にとって代わるさらに次元の高い政策を打ち出していく必要があるのではないでしょうか。
 考えてみれば10万人計画は、当時欧米に比べて少なかった留学生数を増やすことを目的としていたもので、10万という数字自体はあくまでも一つの中間目標にすぎませんでした。次は質の向上が必要だと言われていますが、ここで日本社会にとって留学生のもたらす質的なプラス効果が何なのかを、首相が諮問委員会を作ったり、外務省がプロジェクトチームを作ったりして、各界有識者の意見を聞きながら明らかにしていくべきです。そしてもう一度首相の名義で、少なくとも今後10年の国家戦略を策定し、それに従って優秀な学生を日本社会として受け入れていくべきです。
 新たな目標を立てるには、やはり日本国民が納得できるような形での説明も必要です。「留学生へのサービス」を打ち出した今までの中曽根内閣のビジョンは受け入れ数を合わせようとするためのものでしたから、国民にとってそれほど歓迎すべき意味はなかったのです。それゆえ現在も日本社会の大半は、留学生がこれからますます日本のためになるのだという意識を共有していません。新しいビジョンは、日本社会にとっての留学生の位置付けを明確にし、積極的に評価するものであってほしいです。政府首脳が留学生を評価すれば、法務省や民間の留学生への対応にももう少し改善の根拠が出てきますし、明らかに意識改造の原動力になると思います。そのような全般的な戦略、長期的なビジョンを策定することが必要だと思います。


しゅ・けんえい 
1957年、中国上海生まれ。上海国際問題研究所付属大学院修士課程修了。学習院大学にて博士号(政治学)を取得。1986年、総合研究開発機構(NIRA)客員研究員として来日、学習院大学・東京大学非常勤講師などを経て現職。