Top向学新聞内外の視点銭 逸 氏


銭 逸 氏 
(早稲田大学  生命医療工学研究所教授) 


博士人材の活用に課題  個々人にふさわしい環境を

――留学生受け入れで重要なことは。
  まず、留学生の出口についてよく考える必要があると思います。日本の大学を出たことがその人にどう役立ちどういう将来が見えるのかが問題です。「なぜ優秀な人が日本に来ないのか」と文科省の担当者から質問を受けたことがありますが、博士レベルの人材がなかなか就職できない問題があります。たとえポストドクターとして契約採用されても契約期間が終わると次がないので、ほとんどの学生は修士卒で就職する道を選んでしまいます。また、企業の社員が海外留学して博士を取って戻ってきてもあまり評価されていないのが現状です。
  アメリカでは企業が資金提供して大学に研究所をつくり、基礎研究を委託していますので、研究者にも給料を出せます。プロジェクトを立ち上げる時もメンバーを国際公募し、仕事を通して各自が得たいものを得てから次のステップに行ってもらえる仕組みを整えています。日本でも、例えば海外で大きな業績を出している人を呼んで5年程度働いてもらい、働く中でその人にプラスになるものを得て帰ってもらえるような仕組みを整えたらよいのではないでしょうか。
  留学生についても将来母国に帰す前提で、その人に役立つことを教えてあげる方向性が良いと思います。十分な能力と日本社会への理解があって結果的に残れる人もいるでしょうが、はじめから日本への定着を目的とする受け入れ方はむしろ逆ではないかという気がします。私から見ると、最大多数を占める中国人留学生も昔とは変わってきています。皆に一方的に日本のビジネス文化を詰め込もうとするのではなく、まず個々の人材をどう使おうとするのか、その人に一番ふさわしい環境が何なのかを考えてあげる必要があります。具体的なメリットが見えてこないのに留学生を大量に受け入れようとすると動機と目的のずれた人が増えてしまい、優秀な人材は日本に来なくなってしまうでしょう。
  留学生に日本に定着してもらおうとするならば、まず日本での生活を好きになってもらうことと、安定した生活基盤のもとに研究できる環境をつくることが大切です。また、日本は外国人が慣れるのに非常に時間がかかる社会だと思いますので、もっと早く慣れるよう教育する仕組みが必要です。例えば日本では個人の能力がいくら高くてもグループで能力を認め合うので、そのグループと合わなければうまくいきませんし、評価してもらうためにはプラスαの努力が必要です。ここまで努力しているのに評価してくれない、と文句を言うとなかなかうまくいきません。「郷に入りては郷に従え」なのです。最低限、このような日本社会の特徴は、留学生一人一人にきちんと伝えておかなければならないと思います。


せん いつ
 中国出身。1983年上海交通大学卒。1993年東京大学大学院機械情報工学研究科修了、博士(工学)。1993年富士電機株式会社開発部門主任。ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)シニアリサーチフェロー、東亜大学教授等を経て、2007年現職。上海交通大学客員教授。