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陳 力衛 氏 
(目白大学外国語学部教授) 


寮の入居期限は大きな問題  学部留学生の出口政策構築を

 私は大学で留学生からの相談をよく受けますが、例えば「学費があと10万円足りない」「就職に際して保証人になってほしい」といった非常に現実的・具体的な内容が多いです。メンタルな面に関しては、大学の教員よりも親しい仲間に相談することが多いようです。ですから留学生に対してはカウンセリング体制を充実させるよりも、むしろ奨学金や宿舎を整備するほうがより安心感を与えられると思います。
 大学院生であってもやはり学費の負担は大きいですから、論文を書かなければならないにもかかわらずアルバイトを余儀なくされるケースも見られます。物質面での支援は今後ますます強めるべきで、留学生寮の提供だけでも非常に助かるのです。「1年で寮を出なければならないがどうしたらよいか」という相談もあったりして、次の宿舎を探すのには非常に苦労します。より多くの人に福利が行き渡るようにと短い期間を定めているのかもしれませんが、留学生は何度も引っ越す必要があり、逆に多大な負担を強いられています。これは現実的に一番大きな問題ですので、国は発想を転換し何らかの対策を講じてほしいと思います。
 留学中だけではなく、結局彼らの就職をどうするかという問題もあります。留学生が日本で就職活動をすると非常に不利な場合も多いのですが、特に何もサポートしていない大学も多く、企業側もそもそも留学生を採用対象として念頭においていません。院卒など一部のレベルの高い留学生は能力本位で大企業などで活躍できますが、学部生などそれ以外の大部分の人々を社会としてどのように受け入れていくかということは、留学生受け入れ10万人計画が残した課題です。
 現状として日本で働くには在留資格の問題があり、例えば中国人の場合、就くことができるのはほとんど中国関係の業務ですので、彼らが日本の社会に深く溶け込んでいるとはいえません。企業のほうもよほど優秀でないとあえて採用しない姿勢です。今後は出口政策をうまく整備していかなければ、せっかく受け入れた留学生も人材としてすべて台無しになってしまうでしょうし、留学生自身も「借金までして日本に来たのに何の役にも立たなかった」ということになりかねません。
 その意味では留学後に企業で就労体験を積むことは重要です。実際に企業組織の内部に入ってみて初めて日本社会の本質とその良し悪しがわかるのです。普通の庶民との接触だけでは日本社会の本質は見えてきません。
 日本社会は全体として留学生をまだまだ拒んでいる状態なのではないかと思います。留学生は日本を活性化させる新しい原動力となる可能性があります。例えば彼らの就職問題がうまく解決できれば、留学政策の持続的発展が見込めるでしょう。これから、留学生が学校を選択する時代になるのですから、人気分野への特化、ブランド力の強化といった方向に政策が限定されてくると思います。
 日本が今後労働力問題の解決のために留学生を積極的に活用しようとするならば、まず大量にいる学部レベルの留学生の出口政策をしっかりと考えていく必要があるでしょう。


ちん・りきえい 
 中国出身。北京大学東方語言文学系助手、スタンフォード大学客員研究員を経て、1991年国立国語研究所客員研究員。1994年目白学園女子短大専任講師、目白大学短大部助教授、人文学部助教授、同教授を経て現職。