<向学新聞2010年5月号記事より>
高度外国人活用に向け提言
厚生労働省 課題克服の好事例収集
企業の人事・労務の改革促す
厚生労働省は4月9日、日本企業の高度外国人材の活用を促進するための調査報告書を発表した。世界的な高度人材争奪戦が繰り広げられる中、日本企業では必ずしも高度人材が十分に活かされておらず、魅力ある就職先として選ばれていない現状があると指摘。企業内で外国人活用の障壁となっている要因を洗い出すとともに、それを克服している企業の好事例を収集し、活用態勢の整備のための具体的方策を提言している。
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調査は、厚生労働省が株式会社富士通総研に委託し、2009年9~10月に上場企業等3978社にアンケートを送付、813社から回答を得た。さらに20社を抽出して人事担当者や外国人社員にヒアリングを行った。高度外国人材とは専門職や経営者、留学生などを指している。
調査結果によれば、36・3%の企業が高度外国人材を雇用しており、海外拠点を持つ企業では63・6%が雇用している。しかし雇用人数の平均は一社当たり3・23人で、国内の留学生からの新卒採用は08年度で1社平均1・37人と少数にとどまっている。
採用に関しては、期待通りの人材を採用できている企業は47・5%だった。採用活動の課題としては、「外国人材の能力の判定が難しい」「求める日本語能力を有する人材が少ない」「採用後の受け入れ態勢が整っていない」などを挙げた企業が多かった。留学生を対象とした就職説明会の開催・参加やインターンシップの受け入れを実施している企業は20%程度にとどまった。
入社後の活用の課題は、「採用しても受け入れることができる部署が限られる」、「言語・コミュニケーション上の障壁がある」などの回答が目立った。人材を期待通りに活用できていないと回答した企業では、「日本的な働き方になじめない」など価値観や文化的背景にかかわる理由も多かった。
人材の維持に関しては、「ビザの延長等法制度上の制約が多い」「高度外国人材の雇用管理ができる管理者が不足」「高度外国人材を維持、育成するために、日本人社員よりも手間や追加費用がかかる」の3つが大きな課題となっていることが分かった。
ヒアリングではこうした課題を企業がどのように解決しているのか、好事例を探った。例えば「インターンシップでのトライアルから始める」「部署に最低1名は受け入れを義務化する」などの取り組みによって、小さくても活用の成功例を作り、受入れ部署での外国人材活用の抵抗感を払拭するよう提言している。
また、日本語ができない外国人を受入れても、配属後に社内の日本人講師や外部の学校を併用して日本語研修を行い、ビジネスで困らない程度の日本語会話力を育成できているケースが存在した。そこで報告書では、企業が「採用時に高い日本語能力を求めない」ことで専門性の高い人材を採りやすくなったり、海外現地の人材にも採用対象が広がる可能性を指摘した。そして、営業職と技術職では求められる日本語力が異なることから、一律に高度な日本語能力を要求するのではなく、職種によって要求する水準を変えるよう提言している。
また、キャリア形成についての意識の違いを乗り越えて活用するには、本人の希望や働きぶりを良く見てフォローし、面談を定期的に行うなどの制度整備が必要だとしている。こうした外国人材を活用するための労務管理の仕組みは一朝一夕にできるものではないことから、一刻も早く社内の態勢づくりに着手するよう促している。
厚労省の担当者は、「日本は在留資格制度が諸外国より開放的なのにそれほど外国人が入ってきておらず、どこに障壁があるのかという視点から調査を進めた。企業は好事例集を自社の労務管理に活かしてほしい」と話している。今年に入り、経済産業省近畿経済産業局や九州経済産業局なども、企業の外国人活用事例集を相次いで発行しており、企業の環境整備を後押しする国の動きは活発化しつつあるようだ。
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