Top向学新聞特別インタビュー>2019年1月1日号

特別インタビュー
~ 外国人との共生 ~
 


髙宅 茂 氏
日本大学危機管理学部教授
元法務省入国管理局長



戸籍・身分登録が課題


相続人の確定できず


 政府は外国人労働者の拡大を決定し、「共生」施策の検討を進めている。日本の外国人受入れ体制の課題点や将来必要となる制度設計等について、元入国管理局長の髙宅茂氏にお話を伺った。


――外国人共生施策の実施の経緯や入管政策の変化について

 「平成元年の法改正で日系人が大量に入り、浜松や四日市などの集住都市で住民行政として必要になってきたところから『共生』ということが重視されるようになり、一方で規制改革の観点からも平成17~8年ぐらいから将来の外国人の受入れ拡大を見据えて管理体制を抜本的に改めるべきとの指摘が行われ、それらを受けて平成21年度には法改正が行われた。
 それまでの入管は入国する人をどう規制し危険な人物を排除するかが中心だったが、入れた外国人の把握には問題があった。自治体は外国人登録を住民基本台帳がわりに使っていたが、住民基本台帳と外国人登録に情報が分かれ、使いにくい。そして外国人が転居しても届け出ないため外国人登録の正確性が弱くなっていき、実際に住んでいるか自治体も把握が出来ずに困ってしまった。そこで平成21年に外国人登録法を廃止して、外国人を住民基本台帳の適用対象とする法改正がなされ、住民基本台帳と入管の許認可をリンクさせた。」


――その意義と効果は

 「これである程度の共生の基盤が作られた。日本語教育も重要だが、本当に生活していくうえで必要なのは戸籍と住民基本台帳だ。それらがないと行政の動きが取れない。
 残っている課題は戸籍・身分登録だろう。(外国人の)親族関係がわからないと、例えば大震災の時に安否確認しようとしても確認のしようがない。永住してずっと日本にいる方が亡くなった場合、親族がわからなければ相続人の確定が出来ない。戸籍がないことで身分関係が正確に親族まで含めて把握できないので、日本で育てた息子に他に親族がいるのか、兄弟がいるのかも不明となり、知っていたとしてもそれを証明する手段がない。」

外国人世帯の住居の種類


――すでに家を購入して住んでいる外国人も多い

 「いずれ大きな問題になる。将来的には身分台帳が必要だ。情報を集約して給付行政などにも使えるようにしておかないと、システム的に上手く行かないだろう。」


――外国人受入れ制度で参考にできる国は

 「そもそも法体系が違うので一緒に説明できない。フランスにもドイツにも戸籍制度はなく、その代わりになる制度があるはず。身分登録制度が違うところで同じ議論をしようとしても難しい。結局、永住するということは、外国人が自国民と同じように生活すること。自国民と同じような制度の仕組み、できるだけ近い仕組みを取らなければ共生できない。」


――外国人の健康保険問題について

 「海外にいる親族は把握できていないので、(書類を)偽造される可能性は当然ある。突然子供が10人いるといってもそれが本当の子供かどうかわからない。逆に、実際に(子供が)いる人まで疑われる可能性が出てくる。そういったことを考えるとやはり身分関係の把握はする必要がある。他人の成りすまし受診も実際にする人がいる以上、対応しないといけない。放置すれば日本人の側から外国人を置いておきたくないという話になる。軋轢になるのを防がなければならない。」



髙宅 茂(たかや しげる)
 1981年東京都立大学大学院社会科学研究科基礎法学専攻博士課程単位取得退学。同年法務省入省、2010年法務省入国管理局長。2013年法務省退官。2015年日本大学総合科学研究所教授、2016年より現職。



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