Top向学新聞>ビジネス日本語最前線 内定ブリッジ株式会社 オフィスの日本語コミュニケーションスキル研修 2019年11月1日号

ビジネス日本語最前線


内定ブリッジ株式会社
オフィスの日本語コミュニケーションスキル研修

ギャップを理解し伝え方向上外国人と日本人で学び合う

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 外国人材の活用を進める日本企業にとって、外国人新入社員がスムーズに社内に溶け込み定着できる環境を整備することは重要なポイントだ。しかしそのベースとなる日本語コミュニケーションには、日本人と外国人とで理解のギャップが生じやすい様々な落とし穴がある。それを日本人にも外国人にも共に理解してもらい、社内のコミュニケーションスキルを向上させる研修を行っている、内定ブリッジ株式会社の研修現場を取材した。


双方向の気づき促す

 内定ブリッジ株式会社(東京都千代田区)では、これまで延べ300社、通算60カ国以上の外国人社員および日本人社員にビジネス日本語研修を行ってきた。同社代表の淺海一郎氏が10月にテックファーム株式会社で行った研修では、日本人社員と外国人社員がペアを組み、解釈のギャップが起きやすい会話例をもとに、そのコミュニケーションで何が問題なのか、どうすればよりよい意思疎通ができるかを話し合った。
 淺海氏は冒頭で「日本人も外国人も実はわかっていない、意識していないことを今日学んでいただく」と趣旨を説明。ネイティブ話者の日本人にも気付きを促すそのスタンスは、日本的なやり方に従ってもらうための研修とは一線を画する双方向的なものだ。


日本人は発する情報量が少ない

 淺海氏は日本語教師の経験や、企業で働く多くの外国人と接して得た知見を指導に活かす。「日本語は世界で最も文脈依存度が高いといわれる言語で、会話の中で言葉の意味が変わる」。省略が多くて情報量が少ないので、「何のためにそういう指示をしたのか日本人は上手に説明しないし、できない」。あいまいな指示にどう答えるか、ペアでロールプレイしながら意見交換してもらい、淺海氏は「外国人には締め切りをはっきり示すなどより明確な指示が必要」と的確にアドバイスする。
 省略されている部分をどう解釈するかは、言葉の背景にある日本文化をどう理解しているかにも大きく左右される。日本人ならあうんの呼吸で通じる前提が外国人にはどのように通じないのか、なぜ通じないのかを学んでいく。
 また、外国人の日本語の言葉遣いが日本人に与える印象についても説明する。「悪気なく発した言葉が日本人にとってストレスになることがある。“~してもいいですか”は、“いいえ”がありえない状況で使う。“いいえ”がありそうな状況での聞き方は“~させていただけないでしょうか”」。こういった微妙なニュアンスを理解しないままコミュニケーションを重ねてしまうことで、「外国人は生意気だ」と思われるようになるリスクも高いと淺海氏は注意を促す。

編集部の視点

 これまで政府や民間機関が行った様々な調査において、多くの外国人が日本企業に対し「昇進が遅い」、「昇給昇格の基準が不明確」、「昇進のガラス天井がある」といった印象を抱いていることが明らかになっている。これらは雇用慣行の問題ではあるが、日本人と外国人との間の潜在的なコミュニケーションギャップが原因となっている可能性もあるだろう。

 例えば日本人の上司が、外国人の部下とのコミュニケーションに日ごろから違和感を感じており、「社内のやりとりならまだ許せるが、重要な取引は任せられない」などと昇進が留保されるようなことは、ありうることだ。そうなってしまう前に、日本人も外国人も気づいていない日本語や日本文化の特性に気づくことで無用な誤解を防ぎ、機会の損失を防ぐことができるだろう。

 社員を一方的に日本の色に染めるのではなく、相互に歩み寄り理解し合えるようなアクションこそ、外国人の活躍の促進のためにいま必要とされているのではないだろうか。



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