<向学新聞2020年7月1日号記事より>
外国人対応に強い行政書士事務所
しまお行政書士事務所(大阪府)
島尾 琢 行政書士
高度人材ビザは国からの信頼の証明
高度な技術や能力を持つ人材が対象の在留資格「高度専門職」は、日本政府が重視し、優遇措置も施されている。この在留資格について、島尾行政書士に説明して頂く。島尾氏は、海外駐在経験から現地の状況を感じ取り、日本語教師の顔も持ち、外国人に寄り添った取り組みをしている。
在留資格の制限
行政書士として、日々在留資格に関する仕事をしていても、在留資格の要件の中には理解が難しいことがたくさんあります。そんな在留資格は就労資格だけでも16種類もあり、さらに最近、新たに特定技能資格というものが増え、外国人だけでなく、彼らを受け入れている学校側、企業側にとっても分からないこと知らないことが多いのではないかと思います。そのような数ある就労資格の中から、今日は当事者である外国人だけでなく、雇用企業側にも知ってもらいたい就労資格の話をします。
本来ビザと在留資格は違うものですが、ここでは在留資格のことを一般的に使われている用語であるビザと呼ぶことにします。
この新聞を読んでいる外国人の多くは留学生ビザや就労ビザを持っていて、頑張って勉強していたり、働いていたりしているのだと思います。日本での文化体験や仕事の経験を少しだけして帰国したい人もいるでしょうし、中には長く日本に住み続けたいと思っている人もいるでしょう。そんな人達が持っているビザですが、日本人が知らない制限があったりします。留学生であればアルバイトの仕事内容や時間制限があります。就職する際にも学歴要件があり、当人と企業が双方同意していても、仕事内容と学歴が一致しなければ、就労ビザは発給されません。
既に就労ビザを取得して働いている人も、仕事内容が制限されています。企業側がそのような知識を持たず、この人は優秀だからと色々な仕事を与えていると、ある日突然、不法就労だと言われ、当人だけでなく企業側も処分を受ける可能性があります。その事を何となく知っているが、知識が不十分で線引きがよく分からないからと、外国人雇用に不安を感じて積極的になれないという企業もあります。
制限緩和のビザ
実は、そんな制限が緩和されているビザがあります。高度人材ビザです。これは8年前の2012年にできたビザの一つです。このビザを持っていれば、留学生ビザや就労ビザではできないことが色々できるようになります。他のビザとの違いは、表のようになります。
まず在留期間ですが、このビザは期間が最初から「5年」になります。期間更新も当然ながらできます。これは更新時の面倒くさい書類の準備が5年に1度になることを意味していますし、また、期間が「1年」や「3年」の人よりも国の信頼度が高いということでもあります。またこの期間は当人だけでなく、雇用企業の評価でもあると言えます。在留期間は出入国管理庁(以下、入管)が当人と雇用企業を審査して確定しているからです。「5年」の期間がある外国人がいるということは信頼度が高い外国人であり会社であると国が認めているとも言えるのです。
次に、結婚している人がこのビザを持っていると、結婚相手である夫や妻が日本で働けるようになります。通常、家族滞在ビザを持っている配偶者が日本で働く場合は、週28時間の制限がありますが、高度人材ビザを持っている人の配偶者はこの制限がありません。また、就労ビザに必要な一定の学力要件も不要になります。
そして、少し条件は付きますが、親を自分の国から呼び寄せることができます。親が高齢であったり、病気だけど面倒を見てくれる人が自国にいなかったりしたときに、日本に呼び寄せて一緒に暮らすことができるとなると、日本に腰を据えて、安心して働く要因の一つとなります。また、こちらも少し条件が付きますが、このビザを持っている人は自分の国から家庭使用人を呼ぶことができます。
ビザには在留期間があり、必ず更新手続が必要になってきます。日本で大学や専門学校を卒業し、就職を決めた大勢の外国人は大抵1月の終わり頃から3月にかけてビザの変更をしますし、既に就職している人も同じ時期に更新があります。入管に多くの人が押し寄せ、申請書を提出していきます。入管はこの時期、大勢の人を審査するので、普通ならば審査結果が分かるのに時間がかかりますが、このビザを持っていると更新手続きも優先的に処理をしてもらえます。いつまで待っても審査結果が届かないとイライラすることもありません。
そして、私が他のビザと大きく違うと思うのは、次の2つです。1つ目は「複合的な在留活動の許容」です。通常、研究職で取得した就労ビザは研究だけ、営業職で取得した就労ビザは営業だけしかできません。しかし、高度人材ビザは研究内容と営業に関連性があれば、両方できるのです。つまり色々な仕事ができる可能性が増えるのです。
2つ目は永住許可が受けやすくなります。永住許可は普通10年以上日本に住んでいなければいけませんが、このビザを持っていれば最短1年でもらえることもあります。永住資格を持てば、ビザの期間更新も制限もなくなります。このことは、実は外国人当人だけでなく企業側にもメリットがあります。できる仕事内容に制限がなくなり、日本人と同じように働いてもらえるようになります。しかも期間更新の書類作成に費やす企業側の労力や時間がなくなります。
ポイント充足で変更が可能
この高度人材ビザを取得または他の就労ビザから変更するためには、日本語能力試験のN1またはN2に合格していることや、日本が認めた大学や専門学校を卒業していること(これは外国の大学でもいいです)や、一定の年収があることや、ちゃんと税金を払っていることなど色々な要件があります。その要件を得点にして数え、70点以上あれば、高度人材ビザを取得、変更ができます。
既に企業で働いている外国人の中にこのビザを取得する要件が揃っている人がいるかもしれません。その人に「高度人材」のビザへの変更を勧めてみてはいかがでしょうか。このビザへの変更手続きには、企業側も入管に提出する書類を作成しなければなりませんし、煩雑な部分もあります。しかしそれをする価値は十分にあると思います。面倒くさければ行政書士に相談すればいいのです。
国内の多くの外国人はコミュニティーを持っています。高度人材が集まる会社だとそのコミュニティーが知る事になれば、自ら就職を希望してくる外国人が出てきます。その中には長く働きたいと思っている人材もいることでしょう。今いる人材が新たな人材を連れてくるということになります。優秀な人材確保の有効な手段になり得るのではないでしょうか。また就職時に高度人材ビザでなくても、その後要件を満たし、ビザ変更することで、働ける職種が増え、在留期間が長くなるというのは、会社のメリットになると思います。高度人材ビザも種類があり、永住権にしなくても在留期間が無期限になるものがあり、そちらにシフトして行くこともできます。
私は日本語教師という顔も持っており、長年外国人の日本における不安や悩みに接し続けてまいりました。それらを解決する手段として行政書士を選びました。行政書士となり、今度は外国人を迎える側のお話を伺ううちに、実は双方同じような事を考えていることに気づき、今は双方の不安や悩みを軽減させるシステム構築のアドバイスもしています。そのような中で今回の話を思いつきこの紙面にて書かせていただきました。
◆参考資料:入国管理局の高度外国人材《ポイント計算表》(PDF)
しまお・たく 東海大学海洋学部海洋資源学科卒。石油・天然ガスなどの探査会社や日本語学校の教師を経て、行政書士の資格を取得し開業。専門は外国人の在留資格取得・変更文書作成や日本語学校設立申請、相続・遺言書作成など。
■しまお行政書士事務所 大阪市東淀川区下新庄6の4の3 505号
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(外国人ビザ関係・日本語学校設立)
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