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フェアトレード   


途上国生産者の将来に投資  購買通じ市民が気軽に参加


 今月は、フェアトレードの基準認証団体であるNPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパンの、松木傑理事長にお話をうかがった。


生産者を持続的に支援


――フェアトレードとはどのようなものですか。
 松木 フェアトレードは「公平貿易」とも呼ばれ、コーヒーや紅茶、バナナなどを生産する途上国の貧しい小農家や農園労働者を支援するために始められました。産品の相場価格が下がると、彼らは再生産の費用さえまかなえなくなってしまいます。そこで最低買取価格を保証したり、一定割合の奨励金を加えた買取価格を設定することで、彼らが持続的・計画的に生活できるようにしようというものです。買い取り価格には、単に再生産に必要な分だけでなく、生産者の「将来に対する投資」のための分が含まれています。彼らは得た利益や奨励金を学校や水道建設などの基金に充て、自身の手で社会の発展や生活の向上を図っていくことができるのです。
 フェアトレードは、1960年代に人道的側面の強い運動としてヨーロッパで始まったもので、NGOの人々が途上国の産品を買ってきて自国の「第三世界ショップ」などで売る形で広まりました。その後一般のマーケットにも販路を広げようと、1989年にオランダでラベル運動が始まりました。これはフェアトレードの認証基準を作り、その基準のもとに生産された商品にロゴをつけようという運動です。現在このラベル運動は世界各国に広まっており、日本を含む19ヶ国のラベル組織を束ねるFLO(Fairtrade Labelling Organizations International)が国際的な認定基準の設定、監査、保証の働きをしています。
 一般の消費者がプラスアルファを払って支援するわけですから、その分が労働者に確実に行き渡るシステムが必要です。そのため生産者、貿易業者、販売業者にも登録してもらい、運営状況の定期的な監査を行う形にしています。生産者には、組合の運営に民主性と透明性がある、利益の一部が組合に積み立てられ設備投資に使われるなど、一定の基準を満たすよう求めています。
 2004年におけるラベル商品の売り上げ量は11万2000㌧で前年比70%増と急増しており、生産者への恩恵は50億円にのぼっています。


消費者の意識改革が必要


――日本での普及の状況については。
 松木 日本ではまだそれほど普及が進んでいるとはいえません。消費者である私たちは、最終的に届いたコーヒーや紅茶がおいしいか、安いかといったことには関心がありますが、誰がどういう状況でどういう苦労をしてそれを作っているかということに対しては無関心なのです。実は、コーヒー豆などは本当に苦労して作っています。豆を収穫してからが特に大変で、手作業で皮を取って乾燥させ、悪い豆を選別しなければなりません。タイでは急斜面に農場があるので上に上がるだけでも大変なのです。これらの事実は日本ではまだあまり知られていません。
 生産者を支援するフェアトレード商品は、コーヒー1杯なら普通のものより1~2円高い程度です。その1~2円を払うことで生産者の生活が支えられていることを共感するほうがうれしいのか、あるいは1~2円安かったほうがうれしいのか。普通の感覚の人なら、実際に恩恵がきちんと行き渡るならその1~2円を払うほうがうれしいはずなのです。もう日本の消費者も自分のことだけ考えるのではなく、作っている人の立場を考えられるようになることが必要ではないでしょうか。それぐらいの余裕を持ってもいいのではないかと思います。
 そのような消費者の意識改革が必要であるいっぽう、フェアトレードはおいしさや安さ、安全性を追い求める消費者の欲求と矛盾しないため、ビジネスとしても十分成功する可能性をもっています。耐えられないほど高価でもなく、どの生産者がどう生産したか全部チェックしていますから、安全性やトレーサビリティーについては保証されています。これは現在、食の問題がクローズアップされる中で特に求められていることです。FLOがサプライチェーン全般についての責任を負い保証するというわけですから、現在の企業が向かう方向ともかなり合致しているのです。
 また、ある特定の政府機関が行うものではなく、ごく一般の市民が取り組めるという点に、社会運動としてのフェアトレードの強みがあります。全ての人が何らかの消費をしています。子供でもサッカーボールは使うし、チョコレートは食べます。そのような日常生活に使うものの一部からでも気軽に参加できるという点では、非常に緩やかで現実的な運動だと思います。


――実際の生産者の声は。
 松木 インドネシア北スマトラのコーヒー生産者は、「今まではマーケットが限られていたが、フェアトレードへの参加で多くの可能性が見えてきた。今後は地域の子供たちの教育や新鮮な飲料水の確保などの活動に力を入れていきたい」と話しています。
 多くのコーヒー生産者は豆を作ってから仲買人に売るだけで、自分が作った物を誰が飲んでいるかまでは知りません。フェアトレードのシステムに加わり、現地に視察に行ったわれわれと交流することなどを通して初めて分ってくるのです。ただ生活のためだけに作るのと、消費者のことを知ったうえで作るのとでは生産者の喜びは大きく違います。「作った人と食べる人みんながうれしく、その分おいしい」。これがフェアトレードのコンセプトなのです。