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指静脈認証   


ドアハンドルを握るだけで本人認証  鍵の携帯が不要に、偽造も防止

 今月は、指静脈認証装置を開発した株式会社日立製作所の、中央研究所企画室・内田史彦氏にお話をうかがった。


体内の静脈パターンで認証


――「静脈認証」とはどのようなものですか。
 内田 近年、ピッキングや車上荒らしなどの犯罪が頻発し、セキュリティーに対する意識が急速に高まる中で、指紋、顔、静脈など個人固有の特徴を用いて本人を認証する「生体認証」が広がりを見せています。その中でも、対偽造性の高さと精度の高さで最近注目を浴びているのが、体内の静脈のパターンを使った静脈認証です。
 静脈のパターンは一人として同じものはないといわれていますが、指紋と違って体内にあるため、接触しても跡が残りません。さらに、血液中のヘモグロビンの流れという、生きている人間の情報を使いますので、非常に対偽造性が強いのです。
 現在、静脈認証には、日立製作所の指静脈認証、富士通の手のひら認証、韓国メーカーの手の甲による認証があります。日立の指静脈認証装置の場合小型にでき、一人につき10本の指が登録できるという特長を持っています。また、認証の精度が非常に高いです。銀行のATMに採用するために10万本の指で試験をしましたが、そのとき他人を誤って本人と認識してしまう率は0・00002%で、指紋より2桁か3桁は認証精度が高いのです。
 これらの特長を活かし、日立では、握っただけで瞬時に本人認証する自動車のドアグリップを開発しました。ドアを握って開けるという自然な動作の中に認証の課程を入れ込んでいるもので、この一連の動作は指静脈認証のみで可能です。


――どのような仕組みなのですか。
 内田 静脈認証の原理は、光を指の中に入れ、外に出てくる静脈の影絵のパターンを調べるというものです。ドアノブタイプの場合グリップ側に光源があり、指を透過する光をドア側のカメラで捉えます。今までは主に手のひらの面を認証に用いてきましたが、何かを握ると指が変形したり血管が圧迫されたりするために、静脈の像が安定しないという問題がありました。そこで逆に、握ったときにはじめて適度の張りが生じて明瞭なパターンが得られる指の甲側の静脈に着目し、それを認証に用いています。さらに、指の同じ部分が撮影されるようにドアハンドルの形状を工夫し、指が毎回所定の位置に収まるようにも工夫しています。


暗証番号の設定も不要


 このシステムは、家庭の玄関や金庫の入口のドアに応用できます。もちろん鍵の携帯が不要になりますので、従来のように忘れたり、落としたり、盗まれたりする心配はなくなり、偽造も防止できます。本人認証のための暗証番号の設定も不要になるなど、高い利便性を備えています。
 また、個人を認証できるわけですから、家の鍵に使う場合、家族なら普通に開けられ、登録しなければ絶対に開かないようにすることができます。車なら、ドアノブに加えて車内のエンジンキーを指静脈認証にすれば、車を運転できるのはお父さんだけにするといったことも可能です。これで、子供がエンジンをかけてしまうことによって起こる事故も防げます。単なるセキュリティー機能だけでなく、本当に必要な人、使うべき人だけが使えるようにすることができるのです。逆に、バーチャルな世界で使えば「なりすまし」をうまく防ぐ手段にもなります。このように、指静脈認証は、これからの新時代における奥の深い技術になってくるのではないかと思います。


――貴社ではかなり以前からこの技術の開発に携わってこられたと聞いています。
 内田 弊社研究所では、指静脈認証装置の開発には1997年から着手しています。2000年になって指静脈認証装置の基幹技術を確立しましたが、当時は全くセキュリティーを重視するような時代ではなく、このテーマは一人か二人で研究していたに過ぎませんでした。やはり専門家の方々は、自分なりに将来を見据え、いずれ必要になるだろうと考えて研究しているわけです。そのように何年か後に花開く事を常に研究し続けているからこそ、今何かが出てくるのです。今何かを真似していると、次はありません。
 日本は真似の文化とよく言われますが、個別に見ていくと日本独自のものはたくさんあります。指静脈認証技術も純粋な国産技術のひとつであり、これからどんどん世界に出て行くでしょう。
 弊社が最初に製品化したのは入退室管理のシステムで、次にPC用のUSBメモリ、ATMを発表し、指静脈認証装置を内蔵したノートPCも12月から販売を開始しました。今回の車のドアノブも3年後の製品を目指しています。また、オンライン決済などへの応用も考えられます。静脈パターンのデータ自体はWEB上に流出しないようにして、認証したという結果の情報のみが端末からWEB上に出るような仕掛けを作ることができれば、実現の可能性もあるでしょう。