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ヒートポンプ 


燃焼式よりCO2を65%削減  「地球温暖化対策の切り札」


 今月は、ヒートポンプの普及促進に努める、財団法人ヒートポンプ・蓄熱センターの矢田部隆志氏にお話を伺った。

高効率でクリーン

――ヒートポンプとはどのようなものですか。
矢田部:気体は圧縮すると温度が上昇し、膨張させると冷えますが、その現象を利用して熱あるいは冷熱(冷やすエネルギー)を取り出すシステムです。モーターで気体を圧縮し、生じた熱を水に通せばお湯が作れます。熱が移った後の気体は膨張させて温度を下げて空気中の熱を取り込み、また圧縮させて温度を上げるというサイクルを繰り返しています。冷房はこの反対です。エアコンや冷蔵庫、洗濯乾燥機などの製品はこの原理を利用しています。
  ヒートポンプは燃焼を伴わないため、二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンな熱源です。必要な熱エネルギーを1とすると、その6分の5を空気から取り出した熱エネルギーで賄うことができます。消費電力が必要な熱エネルギーの6分の1と非常に少なく済む点も、大きな特徴です。
  家庭やオフィス用のヒートポンプとして知られる「エコキュート」は、1台で家庭内すべての給湯を賄える高効率なシステムです。燃焼式の湯沸かし器と比較して約2倍のエネルギー効率を達成しています。さらに経済効率を高める「蓄熱(貯湯)」機能をも備えています。蓄熱システムは事務所などの冷房機器にも高い効果があります。冷暖房は主に昼間稼働し、夜間は停止していますので、夜間電力で作り出した熱を蓄熱槽に蓄えて翌日の昼間に放熱するのです。電力会社にとっても昼間のピーク電力を抑制でき、昼夜間の需要の幅が小さくなることでより効率よく発電できるため、安価な「蓄熱調整契約(夜間電力料金)」制度を設けています。したがって、蓄熱システムでランニングコストが大幅に低減されます。
  エコキュートで家庭内のすべての給湯を賄っても、3人家族なら1人1日10円程度です。1年なら燃焼式給湯器で6万~7万円かかっていたところを約1万2000円に抑えられます。CO2の排出量については、燃焼式給湯器より実に65%も削減できるのです。ヒートポンプが「地球温暖化対策の切り札」といわれるゆえんです。
  過去15年間、日本でCO2排出量が増えているのは産業分野ではなく、住宅やオフィスなどの民生部門です。もし日本中の空調・給湯・加温機器がヒートポンプ式に置き換わった場合は、日本の年間CO2排出量は約10%(1・3億トン)削減できると試算されており、京都議定書の目標達成に大きく貢献できると考えられます。 
  政府は2007年、「世界全体で2050年までにCO2排出量を半減する」という「クールアース構想」を発表しました。北海道・洞爺湖サミット前に発表した「福田ビジョン」でも、日本として「2050年までに現状から60~80%のCO2削減」という目標を掲げています。地球温暖化の現状はすでに待ったなしのところまで来ており、今すぐにでも取り組むことができる温暖化対策の筆頭技術としてヒートポンプを位置付けています。エコキュートの設置台数は2007年現在で124万台を突破しましたが、まだ給湯器を使う家庭の10軒に1軒しか買っていない計算です。政府は2010年度までに高効率ヒートポンプ給湯器の累積台数を520万台にする目標を掲げ、補助金制度を設けて普及を促進しています。
  ヒートポンプは画期的な省エネ技術で、日本は世界に先駆けてエコキュートの製品化に成功するなど、世界をリードしています。開発が進んだ背景には同じくヒートポンプを活用したエアコンの「トップランナー制度」の存在があります。ある機器の省エネルギー基準を、その時点で商品化されている最も省エネ性能が優れた機器(トップランナー)の性能以上に設定し、各メーカーにその基準をクリアするよう求める制度です。消費者はトップランナーのマークを見て商品を選ぶようになり、それがついていなければ売れないということになればメーカーは努力せざるを得ず、技術開発が一気に進むのです。
  ある国では建設ラッシュでエアコンの需要が急増していますが、その国のエアコンの一台あたりの電力消費量は日本のエアコンの2~3倍も多いのです。最初に高効率の製品を入れることができなければ、その後10年間にわたって無駄な電力が使われてしまいます。高性能ヒートポンプの世界的な普及に向けて、日本のさらなる国際協力と技術協力が今必要とされているのです。