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CAS 


食品のおいしさそのままに長期保存  世界の食確保する最先端技術


 今月は、CAS技術の開発を進める、株式会社アビーの大和田哲男氏にお話を伺った。

食品の細胞を壊さない

――CASとは何ですか。
大和田:CAS(Cells Alive System)は細胞組織を壊さずに食品のおいしさを再現することができる技術で、現在流通している急速冷凍装置に取り付けが可能です。従来の急速冷凍では、素材に冷風を直接吹きかけるため表面から氷が成長してゆき、内部の未凍結部分の水分が毛細管現象で表面に吸い上げられてしまいます。これにより食品の細胞膜が破壊されてしまうのです。CASを使うと従来の急速冷凍よりも小さな氷結晶ができ、素材全体を一気に凍らせるため、細胞を傷めずドリップが抑制されます。食品の色調や風味、香り、アミノ酸のうまみ成分が凍らせる前のまま保持され、採りたて・作りたてのおいしさと食感を世界のどんな遠いところにも届けられるのです。今まで一流の料理人は冷凍食品を使わないのが常識でしたが、CAS冷凍食品はフランスの三ツ星級レストランをはじめ、和食やフレンチ、イタリアンなどあらゆる料理の分野で使われています。今年ドイツで開かれた4年に一度の料理オリンピックでは、CAS食材を用いた料理が銅メダルを取りました。和食の老舗料亭では、定番メニューをCAS冷凍して全国に販売するところも出てきています。また、アジアでは、害虫によって輸出が難しかった完熟果物などがCASによって輸出可能な商品となり、新たな産業となっている国もあります。
  CASは再生医療など医学の分野にも活用されています。弊社は広島大学と共同で技術開発を行い「ティースバンク(歯の銀行)」を立ち上げました。これは将来の歯の喪失に備え、若い時の親知らずを抜いて保存しておくもので、一生自分の歯で食べるための新しい歯科医療です。こういった成果は順次食品の世界にもフィードバックされています。
  CASの持つ大きな強みは、限りある食糧資源を有効に活用できるということです。品質を劣化させずに約5年もの間保存できるので、食糧の足りない時期や場所に応じて分配できます。例えば漁業では、いま漁獲量が多くても3年先には全く獲れなくなることもあり、その場合は海を休ませなければなりません。そこで我々は、海を思う存分休ませられるよう、旬のものを10年間保存できる技術の開発に取り組もうとしています。
  また、中国ではバターやチーズの消費が多くなってきていますが、中国内の原乳の供給率は大きく乱高下しています。そこで、アフリカの牛乳生産国の大使と会い、原乳をCAS凍結して中国に輸出できるようにするための話をさせてもらっています。
 これまでの世界の民族紛争や戦争の多くは、国民が安定的に食べ物を腹八分目食べられないことによって起きています。したがって、自国で獲れる野菜や肉や魚や果物を、まず自国民に安定的に供給していけるようなシステムが必要とされているのです。それができて、食糧の足りない地域への分配も可能となります。
  今後40年で地球上の総人口は90億人になるといわれています。地球上の有耕面積がどれぐらいで、そこから人間の食べるものがどれくらい獲れるのか一度考えてみなければなりません。海水温は上昇し、静岡の御前崎で獲れていたトラフグが函館で獲れていますし、獲れるときと獲れないときの差も激しくなっています。鳥インフルエンザ以来、それまで魚など食べなかったEU諸国なども魚を食べるようになり、日本は資源外交で買い負けてしまっているのが現状です。
  しかしそのような獲得競争は続けるべきではなく、限りある資源だからこそもっと世界的な視点から有効に使わなければならないのです。今後は食糧を奪い合う愚かな戦争は決して起こすべきではありません。私は昭和19年生まれですが、昔の日本は貧しくとも、隣人の味噌や醤油が足りなければ分け合って特に恥ずかしいとも思わないような時代でした。見栄を張り合う今の時代のほうが日本人は不幸だと思います。われわれがいつ、地球人という名の一国民になれるか。それが問題なのです。
  弊社では来年5月に新しい研究所をスタートさせ、留学生をはじめとする世界の若い方々と共に、時代の環境変化を乗り越えて自国民を食べさせていけるようにするためのシステムについて考えていこうとしています。CASは一企業のビジネスの問題ではなく、世界の食を確保していくための最先端技術です。その開発は、人類に対する大きな責任を担う仕事だと考えています。