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リモートセンシング 


衛星データで百年の気候変動予測  米の食味向上や漁場探査に活用


 今月は、財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)の高松政晴氏と春山幸男氏にお話を伺った。

衛星から地表を把握
――リモートセンシングとは何ですか。
高松:航空機や人工衛星に搭載したセンサから地球を観測し、直接接触することなく情報を得るシステムです。海、森、都市、雲などから反射または放射される電磁波を観測し地表の状況を把握できます。広範囲の情報を定期的に取得でき、同じ箇所を異なる方向から観測することで立体画像も得ることができます。
  応用例については、まず農業分野でブランド米の味の診断などに使われています。赤外線による衛星画像を解析することで稲のタンパク質含有量がわかるのですが、タンパク質が少なく味の良い米の生育条件をデータから逆算し、農家の方の経験値と突き合わせておいしい米作りに役立てようという「精密農業」の試みです。北海道や新潟など米どころの一部の県で活用が進んでいます。
  このように、個人の経験値に頼っていた部分を客観的なデータの形で示しうる意義は大きいと思います。漁業においても、社団法人漁業情報サービスセンターが、海水のクロロフィル(葉緑素)濃度や水温、海面高度などの衛星データを漁船に配信し、漁場の推定に役立てています。魚は水温によって居場所を変えますし、海水中にどれだけプランクトンがいるかクロロフィル濃度で予想できますので、これらがわかれば漁場を判別しやすくなるのです。
春山:農林業においては、森林のどこに何がどれだけ生えているか分析したり、松くい虫に食われて森林が枯れている状況などが判断できます。世界の多くの森林地帯は人が入って実地調査しきれないほど広大ですが、衛星から観測すれば簡単に森林伐採による植生変化の事実等がわかります。
  衛星は常時上空を旋回しているため、そのような定期的な環境評価に効果を発揮します。例えばヒマラヤ、南米アンデス、アルプスなどの氷河の測定に立体画像が活用されています。氷河の貯水能力は農業用水や生活用水の供給に直結し、世界の水のコントロールにおける重要課題となっていますが、衛星データを使えば10年間の氷の減少量をパソコンで計算でき、今後100年間の海水面や気温の上昇も予測できます。氷河の貯水能力が将来確実になくなることがわかれば、お金を出し合ってダムを作ろうということにもなります。今、森林の保全等に関して、インドネシア、ブラジル、アフリカなど環境による影響を受けやすい開発途上国を先進各国が協力して援助する流れが起こっていますが、事実がわかってはじめて各国政府も動き出せるのであって、目に見える客観的な分析値を提供できる意義は大きいのです。
  また、防災利用に関しては、世界の10の宇宙機関が参加し、大規模災害発生時に緊急観測した衛星データを提供する「国際災害チャータ」という枠組みが出来上がっています。日本は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が加盟しており、2008年5月の四川大地震では被災状況の衛星データをチャータ関係機関に提供しました。
  災害時には全体的な被災状況を世界に迅速に流通させることが重要ですので、衛星観測が大いに役立ちます。しかし一番重要なのは、その情報を末端の被災地や被災対策センターに迅速に届けることです。アジアでは自然災害が頻繁に起こりますが、通信インフラの整備が遅れている地域もあります。そこで、GIS情報を提供する組織や、災害関連組織にわかりやすい形で衛星データを仲介する組織、衛星観測を行う組織などが協力し「Sentinel-Asia(アジアの監視員)」プロジェクトを立ち上げました。地震発生地や森林火災の状況、気象データなどをインターネット上に迅速にアップできるようになってきています。災害への対応は各国共通の課題であり、日本が培ったリモートセンシングの技術とノウハウが国際貢献に大いに役立つものと期待しています。