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クリス・バージェス 氏 
(津田塾大学 国際関係学科准教授) 


日本語力低下を懸念  まず定住を考えよ


――留学生30万人計画の課題点は。
  30万人計画推進のエンジンの一つになっている「グローバル30」では、英語のみで卒業できるコースの設置等を打ち出しています。しかし私は、そのために留学生の日本語力が低下し、ますます日本企業に入りにくくなるのではないかと懸念しています。プログラム自体は良くても、英語で勉強できるからと日本の大学に来る人たちは、定住せずすぐ母国に帰ってしまいます。留学生が日本に定住してもしなくても気にしない、長期的に考えると間違ったプログラムになってはいないでしょうか。これは外国人の定住に対する日本人の態度が定まっていないことも一因でしょう。国内に優秀な外国人材が欲しいのならまず定住してもらうことを考えなければなりません。

――大学の国際化とは何でしょうか。
  国際化はもともと中曽根首相が用いた言葉で、国益に関わるナショナリスティックな意味を持っていました。対するグローバル化は外からの動きで、本質的には「日本が動かないと世界についていけない」との動機があるようです。日本が焦って海外大学のまねをし、人材不足の中で海外には優秀な人材がいると言ってあまり深く考えず目指した「リアクション」かも知れません。
  英語化で日本人にも多少の不都合が出ています。既に英語プログラムを導入している大学では、突然のハイレベルな英語による授業になってついていけず、サポートの仕組みもないのでそのクラスを放棄して別のクラスに入ったり、大学を辞めるケースもあるようです。英語を勉強することと英語で勉強することは違うのです。

――日本は何を目指すべきでしょうか。
  いま国内にいる留学生の就職を自分たちのこととして真剣に考えなければなりません。彼らのニーズが何であり、何がミスマッチになっているか研究しなければならないのです。例えばオーストラリアでは大学を卒業すれば簡単に永住権をもらえます。日本も優秀な人材をキープしたいならそのような制度が必要ではないでしょうか。永住権があれば万一仕事がなくなっても日本には居られます。オーストラリアでは外国人というカテゴリー自体がなく、foreignerと呼ばれるのは観光客ぐらいです。自ら進んでやって来て定住する人をforeignerとはいいません。日本は入る・出るという入国管理よりも、移民という概念をもう少し導入したほうがいいでしょう。定住という言葉が広く使われるようになれば、みなの意識も少しずつ変わってくるのではないでしょうか。


クリス・バージェス
英国ダラム大学卒。1992年初来日後、英国に戻り日本研究のため修士課程に進学。再度来日し愛媛大学に留学。オーストラリア・モナッシュ大学で博士号取得。2007年より津田塾大学准教授。



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