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ピニングトン・エイドリアン 氏 
(早稲田大学 国際教養学部 教授) 


受け入れには教員の協力必要  日本留学に付加価値を

――国際教養学部について教えて下さい。
 学生の3分の1は留学生で、ほとんどが母国の高校からそのまま入学し、日本人学生と一緒に授業を受けます。また、韓国や台湾などの高校を回り、学部説明会を実施し、海外の学生に直接大学のPRをしています。AO海外という入試制度もあり、書類選考を経たのち、面接を行います。面接の場合、我々が韓国、中国、台湾などに赴きます。そのおかげで、非常に優秀な留学生が集まってきています。入学後、専門科目は原則としては英語による授業ですが、留学生は日本語も勉強し、多くの学生は非常に日本語が上手になります。3・4年生になると、他の学部で日本語の授業も受けることができます。ですから英語も日本語も習得するので、卒業する時点で、中国人学生などの場合は、三つの言語が使えるということになります。

――日本人学生にはどのような影響がありますか。
 「将来、世界へ」と本気で思っている留学生と出会うことで、衝撃を受けていると思います。日本の高校を出ている日本人学生は、教員に対してあまり文句を言わないし言えないかもしれません。しかし留学生は、「世界一を目指して下さい」、「もっと難しいことをやってほしい」、「もっと課題を出して欲しい」と要求してきます。それは、高校時代から気軽に校長先生や教員と話すことができる自由な雰囲気の中で、非常に楽しく勉強してきたからです。実際台湾の高校に行った時、校長室に学生が頻繁に出入りしていました。そういった環境で育った学生は、本当に勉強をよくします。特に中国出身の学生は、英語を高い水準まで勉強する機会がなかった場合も多くありますが、入学してから日本語も英語も猛烈に勉強します。寝ずに授業の準備をして倒れる留学生もおり、日本人学生にとっては非常にいい刺激になっています。もちろん個人差はありますが、留学生のモチベーションは大変高いです。
 ですから入学時点では、留学生と日本人学生との間にある意欲や能力の差を感じますが、日本人学生はその後の留学経験やこういった留学生と共に学ぶ4年間の中で、本当の教育とは何なのかを理解し、成長していきます。留学生と共に学ぶことで、そういったチャンスを与えることが非常に重要だと思います。

――留学生の就職状況はいかかですか。
 学部が創設された2004年当初はそうではありませんでしたが、最近の就職状況はうまくいっていると感じます。それは、日本企業の姿勢がここ数年で変化してきているからです。変化の一つとして、日本企業が国際人材の必要性を強く感じていることです。もう一つは、以前は留学生に現実的ではないほど高いレベルの日本語力を求めていたのですが、その状況が少しずつゆるくなってきたことです。また、就職に成功した元留学生が職場で活躍してくれているおかげで、企業側が留学生を採用しやすくなっているのもあると思います。留学生は優秀ですので、チャンスさえあれば活躍することができるのです。

――留学生受入れの問題点はどこですか。
 一番大きな問題は、留学生を入学させるだけという場合が多いように感じます。いくら上の立場の方が留学生をたくさん受け入れようと決めても、やはり現場の教員がそれに賛同し、協力しないとうまくいきません。そういった点では、国際教養学部の強みとして、3分の1は外国人の教員で非常に多様ですし、学生の思いに応えようと努力しています。授業は全て英語で行いますが、中国や韓国出身の教員もおり、留学生にとってはそういった教員がいることはとても心強いと思います。また、オフィススタッフも全員英語ができます。
 もう一つの問題点は、教育分野での国際競争が大変激しくなっていることを意識しなければいけないということです。アメリカ、ヨーロッパ、韓国、台湾など、どこでも留学生を積極的に入学させようとしています。ですからその競争の中で日本留学にそれなりの付加価値がなければなりませんし、日本社会全体として危機感を持った方がいいと感じます。

――「英語コース」の設置などによる留学生の受け入れについてどう考えていますか。
 やはり留学生ということを考慮しない場合は上手くいきませんが、留学生のためだけのコースを作るのもどうかと思います。留学生は留学生だけでかたまってしまい、ただ日本にいるだけになってしまいますし、日本人学生にも刺激が全くありません。その点を非常に心配しています。

――日本留学の魅力は何ですか。 
 日本は非西洋の国の中で、一番近代化が上手くいった国であるということだと思います。世界では、非西洋で近代化を行う国の方が圧倒的に多いです。したがって、日本社会はこれからも非常に参考になると思います。例えば面接で、留学生になぜ早稲田に来たいかと必ず聞きますが、やはり日本の成功の秘密を知りたいと答える学生が多いです。また、現在留学している学生は、小さい時から日本のアニメや漫画を見ているので、そこから日本に対して関心を持ち始めたというケースもあります。日本人が考えている以上に、日本の世界的なプレゼンスは大きいと感じています。そのように日本に関心を持ち、留学してくる学生のモチベーションを日本人は大切にすべきだと思います。


Adrian PINNINGTON
英国出身。サセックス大学卒業。文学博士(英文学)。フェリス女学院で専任講師を務めた後、早稲田大学へ。

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