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劉 勇 氏 
(天津外国語大学 日本語学院副教授) 


協定大学留学が時流  農村出身者への支援が課題

――天津外国語大学の学長は中国で唯一の日本語専攻であり、同大学は最も早く設立された外国語専門高等教育機関の一つでもあります。何名の学生が日本語を専攻し、留学するのでしょうか。
 現在天津外国語大学には、1300名以上の学生が日本語学科に在籍しています。そのほとんどがゼロから日本語を学び、卒業時には日本語能力試験N1レベルに相当、あるいはそれ以上の日本語力を身につけます。
 また、毎年約80名の学生が日本の協定大学へ留学しています。中国で2年、日本で2年学ぶ「2+2」や、大学と大学院が連携して中国で4年、日本で2年学ぶ「4+2」など様々な形態で留学しています。国際的な大学間交流が進む中で、今後は協定大学への留学が時代の流れになっていくと思います。中国に8つある外国語大学は協定大学を多くもち、留学生輩出の拠点になっています。

――日本語専攻を志望する学生の動機は何ですか。
 入学前と入学後では、学習動機の変化が見られます。入学前は、漫画やアニメなど現代日本文化に対する興味が最も強いですが、入学後1~2年で、日本経済や社会など研究志向に変わっていきます。また、日系企業への就職や高収入への動機も高まってきます。しかし、異文化交流という考え方はそれほど浸透していないようです。やはり中国国内では日本人と接する機会は少ないですし、日本人専門家もいますが、日本語も中国人教員から教わることがほとんどです。天津外大は「自主学習」と「跨文化交際」(異文化交流)能力を持つ複合型国際化人材の育成を大学の精神としています。今後は跨文化交際の精神を持つ、グローバル人材を育てていきたいと思っています。

――多くの中国人留学生が日本で学んでいますが、近年増加率は減少傾向にあります。留学生増加に向けて、今後の課題は何でしょうか。
 中国国内における高等教育機会の地域間格差が大きな問題になっています。中国は1999年から大学入学枠を拡大しました。大学進学率が一気に増加し、約30%まで達しました。また、中国の地方管理の大学は地元の学生しか募集できませんでしたが、今では全国から募集できるようになりました。天津外大も全国的に募集を開始しましたが、その結果、在籍学生の構造に変化が生じました。農村部出身の学生が増加し、4割を占めるに至ったのです。都市部と農村部では、家庭の経済力に大きな差があり、農村部の学生にとって日本留学はとてもハードルが高いのです。大学間協定留学の選抜では、優秀な成績と経済力が審査されます。非常に優秀な農村出身の教え子がいましたが、「日本に行きたいが両親の負担が重すぎる」と留学を断念し、中国国内の大学院に進学しました。日本語を学ぶ農村出身者にどのような支援が出来るかが新しい課題だと考えています。

――大学進学者数の爆発的な増加と共に、大卒者の就職難という課題に直面しています。日本語を専攻する学生の就職状況はどうでしょうか。
 日本語を専攻している学生にとっても、アドバンテージは少なくなってきています。20数年前は、どの企業も日本留学経験者を欲していましたが、今は留学経験者がたくさんいるからです。ですが、天津には約500社の日系企業が進出しており、そのほとんどに天津外大の卒業生が就職しています。その中に、世界有数の大手日系自動車メーカーの工場がありますが、管理部門の1割は天津外大出身者です。このように日系企業は大きな影響力を持っており、更なる就職者数の増加を期待しています。


Liu Yong
 中国・天津出身。天津外国語大学日本語学部卒業。愛知教育大学大学院で教育学修士号、名古屋大学大学院で教育学博士号を取得。1990年~1996年まで天津人民広播電台(ラジオ放送局)記者。2006年から天津外国語大学日本語学院副教授。2012年から1年間、武蔵野大学客員教授を務める。


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