趙 宏偉氏
(法政大学 キャリアデザイン学部)
漢字のハードルの高さの認識を 留学生入試制度の緩和必要
――留学生受け入れの課題は。
大きな課題の一つは、日本が漢字圏であるということです。基本的に漢字の読み書きが出来なければ大学・大学院に進学することが出来ず、現在の在籍留学生を見てもほとんどが中国・韓国・台湾からの学生で占められています。最近はベトナムからの留学生が増加していますが、元々ベトナムは100年前程まで漢字を使用し現在のベトナム語にその名残もあるので、日本留学が難しい状況だとはあまり思いません。ですが、欧米やアフリカなど他地域からの留学生受け入れ拡大を考えてみると、日本はまだ漢字のハードルの高さを認識していないように感じます。
今後、人口約6億人のアセアン、約12億人のインド、約10億人のアフリカなどが重要な地域ですが、漢字の問題を解決しなければ留学生は増加しないでしょう。特にインドは米国に多くの留学生を送りだしている一方で、日本には数百人しか留学していません。また、ポップカルチャーや伝統文化を通して世界中に日本のファンがいますが、その規模から考えるとあまりにも留学生が少ないように思います。
――同じ漢字圏である中国の状況は。
中国も漢字圏ですが、2011年の段階で約30万人の留学生が学び、その数は世界トップレベルで日本の約2倍です。アフリカなど漢字圏以外の留学生も多く学んでいます。日本と中国を比較してみると、海外・国内での語学教育の充実度に違いが見られます。中国語・中国文化の普及を目的とした孔子学院が一般的に有名ですが、海外大学の正規コース等で中国語が広く教えられています。中国内でも、北京大学など有名大学の語学コースで中国語を勉強して一定レベルに達すれば、そのまま進学できる可能性があり、留学生は中国留学で夢を描きやすいでしょう。
――日本の課題解決策は。
中国との比較でも触れましたが、海外・日本国内での日本語教育を強化する必要があります。例えば大学間レベルで、教育研究交流がある海外大学に日本語教育支援の実施や補助金を支給することが考えられます。また、近年海外に進出する日系企業が増加している影響で、日本語レベルの高い外国人材採用のニーズが高まっています。経団連など経済団体から資金を集めて教育ファンドを造り、海外での日本語教育に投資を行うことも可能ではないでしょうか。
日本国内では、漢字圏以外の留学生を対象に、留学生入試制度を緩和すべきです。現在、日本語での小論文・筆記試験を入学試験で必須にする大学が多く、漢字が出来なければその時点でアウトになってしまいます。ですが、大学入試前に1~2年間日本語学校で勉強している留学生が多いので、日本語学校修了時点での日本語力だけで判断するのではなく、日本語学校+大学の6年間で十分な日本語力を育成する制度を構築すべきだと思います。大学入試では、日本語学校の出席状況や日本語力の伸びを勘案して入学の可否を検討してはいかがでしょうか。現時点では、日本語学校に入学しても大学に進学できるか不透明な状況で、「ジャパニーズドリーム」はなかなか描けません。幅広い若者に夢のある日本留学を提供できるよう、受け入れ・教育システムの充実を願います。
ZHAO HONGWEI
中国出身。1993年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程終了。東京大学、愛知大学等での講師を経て、1999年に法政大学工学部助教授に就任。2002年から同大学キャリアデザイン学部教授。
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