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尚 捷さん(中国出身) 
(株式会社 InfoDeliver 代表取締役社長) 


「担いでくれる人」が必要
感謝することからスタート

――留学生が日本で働く上で必要な心構えとは。
  企業がほしいのは要するに「担いでくれる人」であって、誰かに頼る人は必要としていません。少しでも依存心があれば、日本企業に入っても使われるしかない人になりますので出世できないのです。
  留学生は本当に自分が何をしたいか、何ができるのかをまず明確にすべきです。かくいう私も留学生時代、自分の将来を具体的に描き切れていたわけではありませんでしたが、日本に来た以上は日中の「架け橋」になる、ということは最初から一貫して考えており、現在のInfoDeliverのビジョンにもなっています。この言葉はよく来日後最初の日本語論文で留学生が書きますが、本気でそう思っているかどうかが問題です。私はそのシンプルなビジョンをずっと今も信じ続けています。
  日中間の現状として、留学生が思っているほど日本人は中国のことを知りません。日本人は以前は欧米の方を向いていて、中国に興味を持ち始めたのは最近のことです。企業の留学生採用に関しても、日本人と同等の採用基準で採っていましたので、よほど優秀でないかぎり日本人を採用したほうが楽だと考える企業は多かったのです。今では中国はマーケットですので、戦略的に中国人を採用する時代になってきました。留学生枠を設けて採用を拡大しているので、皆さんにとってはチャンスです。

――留学中に準備しておくべき内容とは。
  私の知る限り、大体の日本企業は「素直な人がほしい」と言います。相手のことを考えて言われたことを言われた通りにできる人です。留学生は日本人からよく「優秀だ」などと褒め殺しにされますので、本当に自分は優秀だと思ってしまう人がいるかもしれませんが、自信過剰になり成長が止まってしまうような人がいるのは残念なことです。
  ある世界的に有名な日本の電機メーカーさんは、中国現地の学生を採用し、日本につれてきて高い給料で雇っています。なぜ日本に10万人以上の留学生がいるのに採用しないのかと聞くと、「本当に一流の人材は日本国内にいないのではないか」という非常にシビアな判断なのです。いっぽうで例えば精華大学に行っても、超一流クラスの人は採用しない。「協調性がなさそうだから」というのです。企業の人事の考え方は難しいのです。このあたりをよくよく考え、学生としては、まず素直になることが必要だと思います。
  留学生は実際に様々な人にお世話になり助けてもらっている立場ですから、感謝することからスタートです。それが当たり前と思ってしまうとすべて逆に転じ、世話する人はいなくなります。企業は雇う人に給料を払うのですから、戦略的に使えるかどうか、リターンがあるかどうかというシビアな基準で見られます。ですから留学生は奢らず、媚びず、受けた恩に感謝し、依存心を捨て、自立心を持って社会を担いで立つ。そういう心構えを持つことが必要だと思います。
  この意味では、奨学金の支給基準はもっと厳しくすべきです。その結果支給人数が減ってもそれで良いのではないでしょうか。日本留学のブランド力は落ちてきていると感じています。アメリカ留学組と議論する機会がありましたが、日本に留学したというと「たくさん皿を洗ってきたんだね」といわれました。そういうイメージなのです。今のままではただ留学生数を増やしても企業は採用しないでしょう。
  しかし最初から留学生にはチャンスがないなどと思う必要はありません。母国に戻っても創業するチャンスはいくらでもあります。友人の元留学生は帰国後に宅配便事業を立ち上げましたが、彼も在学中はアルバイトばかりして就職できなかったといいます。しかし今では彼の会社は業界最大手です。どこで働いたほうが得なのかといったことは全く問題ではありません。まず自分の人生で何をしたいかを考えれば、自分の価値が変わってくるのです。


しょう かつ
 1972年生まれ。91年来日、東京工業大学経営工学科入学。在学中にインターネットカフェをオープン。99年有限会社シンカを設立、00年株式会社InfoDeliverに改組、代表取締役社長に就任。