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楊 立明 氏 
(早稲田大学国際教養学術院教授) 


留学生は文化の媒介  人材として積極利用を

 ――日本社会の外国人受け入れの現状と課題について。
 日本がいままで敷いてきた政策は「入国管理」政策であり、移民を受け入れる政策ではありませんでした。移住者の立場を大別すると、何年か留学したあと引き続き滞在する場合と、技術者など専門性を持つ人材で抜擢されて来日する場合の2パターンあります。日本の産業界では通常後者のほうが人材としての経済効率が高いと認識されています。確かに効率面だけ考えれば、留学経験がなくとも働ければ良いのかもしれません。
 しかしながら人間には頭脳だけでなくもっと人間臭い、地域社会に根ざした生活の側面があります。欧米の経験を見ても分かるように、現地の人とのイデオロギー的・文化的な摩擦も起こり得るのであり、そのような部分をカットして頭脳だけ持ってくることはできません。出来上がったものを取ってきて苦労しないで利用しようとすると、必ずひずみが生じるのです。逆の例を挙げれば、当初一時滞在の目的で来日した留学生の中でも、日本の地域社会での生活の中で居場所を見つけ、その中で日本社会の一員として生活する人も出てきています。
 留学生受け入れ態勢については、そのような観点から考えてみるべきです。留学生の中には本当に日本社会に根ざして生きていきたい人がいます。日本語をもっと深く学び、日本に生活の拠点を置きたいそのような人たちをこそ応援し、心から日本で働きたい人たちに多くの機会を与えられるよう、社会の懐を広げていくべきです。
 私の研究室では遠隔教育に関する研究を行っていますが、2000年度から日本と北京、台北、ソウルをネットワークで結び、学生が共通のテーマで議論する試みを行っています。その中で感じるのは、なかなか話が通じないということです。すぐ陣営化してしまい、歴史問題の対話などは不可能です。
 しかし面白いことに、日本人と在日留学生との間で行った模擬遠隔調査では、空間を共有でき、歴史問題でも話せるのです。留学生にはわれわれは何人だという壁があまりなく、日本人と中国人との議論では日本人の中に入って、「彼らが言いたいのはこうなのだ」という解説をつけ、非常に大きな役割を果たしたのです。まさに留学生は文化の媒介であり、そのような存在を利用しないのは非常にもったいないと思います。彼らを人材として「利用する」という観点は、もっと積極的に打ち出してもかまわないのではないでしょうか。


よう・りつめい  
中国出身。1979年来日。明治大学商学部勤務(1994年~2000年)、早稲田大学語学教育研究所勤務(2001年~)、2004年から現職。専門は中国語教育。