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王 敏 氏 
(法政大学 国際日本学研究センター教授) 


留学生受け入れに誇りと責任感を  今後は人材の発掘と活用が大切

 ――留学生受け入れについての日本社会の課題とは何でしょうか。
 まず、日本人は、多くの留学生が日本に学んでいることをもっと誇りに思うべきです。日本が成功した国であり、知的蓄積を持っており、求心力があるゆえに彼らが来日するのです。ですからそのことに誇りをもって留学生を温かく見守り、感謝しながら大切に育ててあげるべきです。そのような心情と責任感を持つことで、受け入れの土壌が良くなっていきます。しかし現状では日本人は、多くの留学生を受け入れていることを、それほど自国の光栄だとは思っていないように感じます。
 私が北京語言大学を訪ねたとき、曲徳林学長は「私の大学には世界163ヶ国の人々が勉強しにきています」と誇りを持って言っていました。「一人一人の留学生が私の子供のように思え、大切にしてあげたい」というのです。同大学への留学生からは14人もの大使が輩出されていますが、このように責任感を持って受け入れてあげれば、当然優秀な人材も出てくるのです。留日組で中国の大学の学長・副学長になった人は約100名、局長級以上の人も100名程度いますが、その人たちが留学した当時、大学や指導教官など周囲の人々はどれくらい彼らの持っている潜在能力に気付き、それを意識的に育ててあげようとしたでしょうか。

――受け入れる側の意識改革も必要ですね。
 そうですね。日本人は他の国と比べて集団意識が強いだけに、集団の外の者や他集団に対してそれを別のものと考える傾向があると思われます。それは外国人に対してだけではなく、日本人どうしの間にも見られます。また、日本は均質社会で、異なるものより同じものに安心感を持ちます。外国人は当然異質な存在として見られるでしょう。留学生の受け入れ土壌を良くするためには、まず日本人がそのような自らの傾向に気づく必要があるでしょう。グローバリゼーションの進展やインターネットの普及により、「一国独立」の内向きな国のあり方はもはや許されなくなってきました。科学技術など、分野によっては日本を中心とするグローバル化の展開もあり得ますが、内と外を区別する価値観、対人関係のあり方においては、日本は世界の少数派になるかも知れません。日本文化が良いか悪いかという話ではなく、今後は日本も多数派のあり方へと開かれていくしかないのではないかと思うのです。

――10万人計画が達成されましたが、政府は今後どのような留学生政策を考えていくべきでしょうか。
 10万人計画は中曾根元首相がアジアへの貢献を目標として打ち出したものですが、確かにそれはうまくいきました。留学生の受け入れは、日本の国際貢献の成果として高く評価しなければなりません。
 しかし、日本は受け入れには力を入れたものの、留学生人材の発掘と活用についてはまだ不得手なのではないかと思います。留学生は日本と密接な関係があるのですから、そのような人材をもっと活かしていくべきなのです。これからますます世界のグローバル化が進み、周辺諸国と共同で考え行動する機会が増えてくるのは目に見えています。そのためには日本の理解者が必要で、それがまさに留学生なのです。したがって、留学生を大切にすることが、すなわち日本を大切にすることにもなります。
 日本がこれまで人間関係において「内と外」の関係を維持してきたのは、おそらく島国という独立した地理環境のゆえでもあったのでしょうが、グロ―バル化社会においては、少なくとも周辺諸国と一つの屋根の下に同居するようになるのは仕方ありません。いわばそれは親戚のような関係です。嫌でも付き合わなければならないのが親戚であり、関係は切っても切ることができません。
 ですから日本は、周辺諸国からの留学生を、一つの屋根の下で共に生きていく者として大切に育てていくよう願います。


ワン・ミン 
1954年中国・河北省生まれ。四川外国語学院大学院修了。人文科学博士(お茶の水女子大学)。専攻は日中比較研究、日本研究、宮沢賢治研究。