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株式会社篠崎製作所  


今月は、レーザー光学の高度な技術を活かして極微細加工や加工機の開発などを手がける、株式会社篠崎製作所の井ノ原忠彦専務にお話をうかがった。

微細加工を可能にする技術

――レーザーとはどのようなものなのでしょうか。
井ノ原:レーザーとは「誘導放出による光の増幅」という意味の合成語です。普通の太陽光はただ目的もなく光を出しているので、あたかも群集がそれぞれ自分勝手に動こうとしているように、光が様々な方向に行くわけです。しかしレーザー光は一つの目的に向かって行進する軍隊のようなもので、ある一定の波長で一定の方向に光を出しています。そのため太陽光の数倍のエネルギーを局部的に起こしてものを焼き切ったり、破壊したりすることができるのです。その中でも弊社が手がけているのはエキシマレーザーとよばれる紫外線のレーザー光です。物質は太陽光に含まれる紫外線によって劣化していくのですが、その劣化させる力をうまく使って加工していくのです。その仕組みをさらに詳しく説明すると、物質は全て分子が結合してできあがっていますが、そこに紫外線が当ると分子間の結合が切れて分子が飛び出してしまい、そこがあたかも加工されたように見えるということです。

――具体的にどのようなことができるのでしょうか。
井ノ原:エキシマレーザーは非常に細かい加工に適していて、例えば太さが約0・1㍉の髪の毛に正確な文字を書くことができます。文字の溝の幅はわずか100分の1㍉程度しかありません。しかし実は、この細かい溝を掘ること自体は、機械を持っている人なら誰でもできる簡単なことなのです。それよりもむしろ、髪の毛をまっすぐに固定しておくことに大変な技術が必要なのです。光が出てくるところに髪の毛がなければならないのですが、髪の毛は均一に計算されて作られているわけではありませんから、初めからなかなかうまくいくものではありません。ですからこの技術は、しっかりと髪の毛を固定する技術や、それを光の下にうまく持っていく技術、そして光を有効に使う技術など、そこに様々なアイデアや工夫が加わることによって初めて成り立ったものなのです。

中小企業のネットワーク

――技術開発には、独特な体制を敷いていると聞いていますが。
井ノ原:弊社のほかにもレーザー加工や加工機の制作などを行っている会社はたくさんあります。でもレーザー加工、機械加工、レーザー加工機制作の全てをできるところは弊社しかありません。それら三つの円が重なったわずかな部分が商売のしどころなのです。弊社の工場には全国からお客様が「これを作りたいがどうすればいいか」と相談に来ます。それに対してアドバイスしていく方法を取っていますので、弊社にいるのはスペシャリストばかりです。最初にお見えになるのは「レーザーでできないか」というお客様がほとんどですが、それがどうしてもレーザー以外ではできないものならばレーザーを使います。しかしいっぽうでは機械加工、半導体製造装置を使うなど様々な作り方の候補を挙げ、一番リーズナブルなもの作りの仕方をお客様に提案していくことができます。そこが弊社の生命線ともいえる点です。そういったことは1社でできるものではなく、アライアンスシステムという中小企業間の独自のネットワークを組んでそこから色々情報を仕入れ、企業同士で日夜新しい研究をしながら網を張っているからこそできるのです。ネットワークをフルに使って多くの仕事をこなせるのがわれわれの強みです。

「?の実践」で新技術開発

――新たに開発中の技術は。
井ノ原:レーザーで根菜の皮をむく新技術を開発中で、すでに実験で可能なことは分っています。皮と実では水分の含有量が違いますから、境目で光が乱反射して皮が飛んでしまうのです。しかし、同じ形のジャガイモは一個もないので、その個体差に対応する技術を今開発しているところです。また、牛乳や卵、水などの身近にあるもので日夜実験を繰り返してレーザーとの関連性を調べ、食物の安全性を高めていくのに弊社のレーザー技術がどう役に立てるのかということも考えていこうとしています。

――新技術の開発に必要な姿勢とは。
井ノ原:まず「やってみる」ということ、つまりトライ&エラーです。日夜開発の気持ちを忘れず、忙しい中でも自分で何かテーマをもって考えていくことが大事だと思います。
  また、弊社の社是は「?の実践」ですが、これは何事にもいえます。最初に工場にお見えになったお客様に対しては、ニーズがどこにあるのか掴んで差し上げることが一番大事です。お客様は本当のニーズがどこにあるのか自分で分っていないケースも多いので、「なぜそうでなければならないのですか」と問いかけて分析して差し上げることも必要です。それから作業者も「なぜこうしなければいけないのか、改善する必要があるのではないか」といった問いかけを重ねていくと新技術の開発のテーマが見えてくるのです。