Top向学新聞トップに聞くグローバル教育の行方>ウスビ サコ 氏(2020年1月1日号)

共生社会実現の条件とは 


ウスビ サコ 氏
京都精華大学学長

ウスビ サコ 氏



< Oussouby SACKO >
 中国・北京言語大学、南京東南大学を経て来日。京都大学大学院建築学専攻博士課程修了、工学博士。専門は空間人類学で、「京都の町家再生」「コミュニティ再生」など、社会と建築の関係性を様々な角度から調査研究している。バンバラ語、英語、フランス語、中国語、関西弁を操るマルチリンガル。2001年に京都精華大学人文学部教員、2018年4月より京都精華大学学長。アフリカ系初の日本の大学の学長となった。日本国籍を取得しており、妻は日本人。


外国人も日本人も全員がアクター


 日本政府は外国人との共生施策を定めたが、真の共生に至るには日本人を含めた全体の意識改革が必要だ。日本に30年近く在住するウスビ・サコ氏に、ダイバーシティの実現に必要な事や、国際教育にどんな考え方や施策が必要かなどについてお話を伺った。


 
留学生を活かすビジョン持て


――企業等で外国人の「定着」が課題となっています。

 日本では、留学生は日本がベストだと思ってやって来て、日本に落ち着くのだという思い込みがあるようですが、これは誤解です。日本でベストなものを得られる状況を作ってあげないといけないのです。

 私が知る限り、留学後に日本で先が見えずに米国やカナダ等の第三国に行ってしまう人は結構多いです。それはそこに機会が多くあるからです。日本で就職しても残業などでしんどい思いをして、せっかく学んだ技術も生かされずチャンスが訪れない人がいます。会社は国際化や国際展開したいといって外国人を採るわけですが、やはり最初はみなお茶を汲んだりするようなところからスタートします。何年経ったら自分は本当に活かされるんだ、こんなに勉強してきたのにコピー係か?という話になりますよね。日本人はそうさせている目的をよく説明しません。「半年トレーニングする」といきなり研修に入り、ずっとそのまま行って、博士をとっているのに2年たっても電話対応をしている人がいます。これは結構ひどいケースですが、この種の話は実際よくあるのです。

 日本は留学生をどう生かしたいかビジョンを持った方が良いです。みんな海外から来たのですから日本にずっといなければいけない条件は何もありません。最近は国をまたいで歩きまわること自体が当たり前の時代です。合えば居るし、合わなければ次に行くのです。

――2019年ラグビーワールドカップの日本チームの活躍からは、「外国人の力を活かす」ヒントが得られた気がします。

 多様性があればエンパワーメントになるのです。その意味で、日本は留学生が留学後に日本に残る条件をまだ整えていない点が多いように感じています。

――外国人との共生社会を作っていく政策的な動きが出てきていますが、実現のためには何が必要でしょうか。

 共生とはホストとゲストの関係ではないということです。全員がアクターであり、役割があって、社会の中でそれぞれ立ち位置があるから共生社会というのです。誰かが誰かのためにサービスするようにしてしまうと共生社会は実現できません。外国人をお客さん化しないのが大事だと思います。

 それぞれの構成員が、自分の居る場所に愛着を持ち、その維持管理改善に参画できるかどうかです。維持管理改善に参加できるならお客さんではありません。その人のアイディアも出すし、行動もするし、頭も動かすのです。

――外国人も参政権を持つべきでしょうか。

 極めて政治的でない参政権というものもあるわけです。自分の住んでいる街をどうやって良くしていくか、そこに物申したいという社会参画への思いは誰にでもあると思います。政治は政治家や国会など別次元でやってもらったらいいですが、例えば市議会辺りで市民投票ができるぐらいの仕組みはあってもいいのではないでしょうか。

――政府の共生政策はまだ日本人目線で作られているようにも思えます。

 そういう意味では、政策を作っていく過程でも、様々な社会経験を持っている外国人を有識者として意見を聞いたり、様々なバックグラウンドを持った人に政策決定の過程で参画してもらうのが重要だと思います。

――ビジネスの現場でも、外国人に日本企業に合わせてもらうのか、互いが歩み寄るのか、様々なアプローチがみられます。

 そこは重要なポイントで、仕事のスタイル、協働の基準が成り立っていないということでしょう。「うちは150年同じことをしてきたのでこれからも同じだ」と言っていても、これから30年後には別の日本がやってきます。その時にも同じスタイルでやるわけではないでしょう。150年続いたものはかなり時代の要請によって改善したり、合わせたりしてきたのではないでしょうか。京都の老舗で話を聞くと、この時期にこう決断した、こういう捉え方をしたとみんな結構言いますからね。伝統自体が革新の連続であり、革新し続ける社会が持続可能性のある社会になるわけです。

――時代に対応する柔軟性がないと外国人の力を活かせないのかもしれません。

 それは私が思うに、計画的・戦略的ではないからです。戦略的であれば、10~20年後の会社の将来像に対して必要な人材を計画的に入れていくでしょう。外国人を雇うことにどういう意味があるのか、これまでずっと会社の中にいた人達にとって、メリットも含めて、どういう意味があるのかを本当に考えた時に、日本社会そのものがどのように変わらなければいけないかも見えてくると思います。

<1>  <2> 入試の形を変えて入学者の3割が留学生になった京都精華大学では ―



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