Top向学新聞>2020年1月1日号

慶應義塾大学大学院
SDM研究科附属SDM研究所パブリックシステム・ラボ
「共に生きるための日本語 レクチャー&ワークショップ」


学内のダイバーシティ推進に
留学生の共同研究が一役



 慶應義塾大学大学院SDM研究科附属SDM研究所パブリックシステム・ラボは12月7日、日吉キャンパスにおいて「共に生きるための日本語 レクチャー&ワークショップ」を開催した。日本語のあいまいさや文脈依存性などの特性を知ることで、日本人と外国人のコミュニケーションギャップを軽減しようという体験型のワークショップだ。


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講師の内定ブリッジ株式会社・淺海一郎氏


 
 当日は慶應義塾大学の日本人学生や留学生、留学生担当教職員、日本語学校教員や一般企業などから21名が参加。企業や外国人向けのビジネス日本語研修を行う内定ブリッジ株式会社の淺海一郎氏を講師に、ロールプレーイングを交えて日本語の特性について学んだ。

 現在日本では外国人材や留学生の受け入れが進んでいるが、学校・職場・地域で日本語を使ってコミュニケーションをとる時にうまくいかず、ストレスとなる場面も生じている。淺海氏は「地方で日本人マネージャーと外国人実習生の間のケンカが問題になっている」と指摘。言葉に表れていない意味が外国人に理解されにくい構造を説明し、外国人に伝えるためには日本人の側にも意識すべきことがあることを示した。

 参加型のロールプレーイングでは、例えばある銀座の南インドレストランでお客さんが「これ、ください」といったときに、外国人のスタッフが「それだけですか?」と返した実話を例示。もし自分がこの外国人スタッフの上司ならどうアドバイスするかなどをペアで話し合った。


「それだけですか?」をめぐってペアで話し合う

「それだけですか?」をめぐってペアで話し合う


 公開ワークショップを主催した慶大院SDM研究科パブリックシステム・ラボの谷口尚子准教授は、ある「留学生の研究」がワークショップ開催のきっかけとなったと話す。「なぜ外国人は日本語コミュニケーションで深い真意を知ることが難しいのか」という問題意識を持ったある台湾人留学生が、様々な企業で日本語コミュニケーション研修の効果測定を続けている淺海氏と共同で研究に取り組み、成果を修士論文にまとめた。研修受講者の意識が受講前からどう変わったかを数値的に表し、改善されるべき障壁が何であるのかを明らかにしている。この論文は、日本語教育学会から独立して発足した「ビジネス日本語研究会(BJG)」の2020年1月のジャーナルに掲載予定だという。

 谷口准教授は慶應義塾でダイバーシティを進めるための組織、「協生環境推進室」の委員を務める。この組織は国籍や性別、障害の有無にかかわらず、ともに慶應義塾で学び生活しやすくするために2018年に創設された全学規模の機関だ。それまでは留学生支援、ジェンダー支援、障碍者支援等を別の部門で行っていたが、広くダイバーシティ実現の観点から支援を一元化した。

 協生環境推進室では、啓発のための映画上映や学内の働き方改革の支援など多様な試みを行っている。その中で、先述の留学生の日本語コミュニケーションに関する共同研究が学内のダイバーシティ推進にも有益であるとみて、研究にとどまらない啓発イベントの実施を淺海氏に依頼したという。慶應義塾伝統の「実学」を重んずるスタンスは、多様性を目指す新たな取り組みにおいても健在のようだ。

 当日参加したシステムデザイン・マネジメント研究科の大学院生は、「自分は日本人と韓国人のハーフ。それでも講演では気づくことがたくさんあった」と話す。参加者にとっては文化的背景の違いにかかわらず、「日本語」そのものが持つ未知の特性に気づくよい機会となったようだ。



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