向学新聞2021年4月号目次>省庁担当者に聞く 厚生労働省職安定局
<向学新聞2021年4月号記事より>
厚生労働省職安定局 外国人雇用対策課課長
石津克己 氏
(一面記事から続く)
雇用管理に役立つ多言語用語集及び翻訳データの作成・普及事業について
多様な人材が活躍できる環境づくり
今回の事業について、厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課課長の石津克己氏にお話を伺った。
―本事業がスタートした経緯を教えて下さい。
平成30年の外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議や、平成31年4月の特定技能の制度開始と同じタイミングで、厚労省でも外国人雇用管理指針を見直しました。このガイドラインには、特定技能の方に限らず、広く外国人労働者が、職場で能力を発揮するために、事業主が守るべきことなどがまとめられています。この見直しのポイントは、職場で定められているルールや働き方について、外国人労働者に「やさしい日本語や母語により、きちんと伝わるように伝えることが大事である」とした点です。それを補助するものとして、労務管理に関する一般的なキーワードについて、日本語と母語の対応表のような辞書のようなものが必要なのでは、との考えが出発点です。
―作成のポイントはどのようなところでしょうか。
事業を進める中で、有識者研究会の委員から、用語の説明だけでは、職場のルールが「なぜそうなっているのか」を理解してもらうには足りないのでは、とのご意見がありました。例えば、会社になぜ住所や家族の情報を届け出ないといけないのか、提示されていた給与額からなぜ手取りの給与額が減っているのか、という疑問には、各種の手当や、住民税、社会保険などその背景にあるしくみについての説明を補って伝える必要があります。そこで、多くの企業で、説明が難しいと感じている点、または外国人労働者が理解しづらい点について、どのように説明すればよいかの基となるものが必要だろう、とのご意見を受けて、「外国人社員と働く職場の労務管理に使えるポイント・例文集」もあわせて作成することにしました。
―研究会を開催する中でどのような気づきがありましたか。
研究会での一番大きな気づきとしては、外国人労働者に対して働きやすい職場環境を整えることは、結果として日本人、特に若者にとって働きやすい環境を整備することにも通じる、ということです。例えば、ポイント集の「労働時間」の項目を議論する中で、最初は「外国人社員は始業時間ギリギリに来ることが多いからどうしよう」という話をしていたのが、実は「日本人は終業時間にはルーズだったりもするよね」という話も出てきて、最終的には外国人の方の考え方と日本の雇用慣行というものの両者について、気づきを与える意味で率直に記載していくことにしました。
―日本人同士の中でも、世代間ギャップといわれるものがあります。どちらが正しいかではなく、ギャップがあることをお互いが認識し、それを埋めるためのアクションが必要とされます。
そうですね。「ダイバーシティ」ということに尽きるのかも知れませんが、この言葉を使えばダイバーシティが実現するものではありません。まずは、事業主や人事労務担当者が、自分の会社のルールはどうなっているのか、あらゆる人にとって合理的といえるか、合理的とはいえないが尊重すべきところはどこか、この機会により合理的な方に見直すべきところはどこかを、自問する材料・きっかけとしても、今回の事業の成果物が役立つと思います。
―ポイント・例文集の後半には、雇用企業での具体的な事例集が含まれています。
外国人労働者が活躍しやすい職場環境を整えていくことを、日本社会全体の課題として、成功事例・失敗事例両方を共有して、事業所ごとに役に立てていただきたいです。
現在、日本では約27万の事業所で外国人労働者が活躍しています。外国人の労務管理についてのノウハウ・知見を、一つの事業所にとどめることなく、積極的に発信していただき、事業所同士や地域ごとの集まりの中で対話が生まれ、事例が広く共有されていくことを望んでいます。日本企業全体の人事労務管理のバージョンアップのきっかけづくりにもなればと思います。
コロナ禍ではあっても、人手不足の産業がありますし、日本企業がグローバル展開する中でも外国人の方の活躍は必要です。また、現在は外国人労働者を雇っていない企業でも、今後の予習として、他社の事例はとても参考になります。
外国人労働者に限らず女性、高齢者、障害者の方々、それぞれの能力が十分に発揮され、能力を組み合わせて日本企業のパフォーマンスを向上させていかなければならない時に来ていると思います。
―今回の事業名には「作成」と「普及」が入っています。普及についての取り組みを教えてください。
一つは、厚労省のホームページに成果物をアップし、用語集もふりがな付きで10言語で見られるように公開します。また、地方労働局・ハローワークでの外国人雇用事業主向けのセミナーなどでの周知や、入管、地方自治体、企業団体や関係団体を通じて周知していく予定です。
もう一つは、用語集のデータを、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)に提供します。NICTは、AIを用いた翻訳技術の研究をしており、翻訳機器「ポケトーク」やスマートフォン向け翻訳アプリ「ボイストラ」などの、翻訳アルゴリズムを提供しています。今回の事業で作成した翻訳データを提供することで、労働関係用語について、これらの翻訳ツールの翻訳精度が上がることが期待されます。
社内ルールの見直しや働く環境の整備は、会社ごとに判断して取り組むところです。今回の事業の成果物をぜひ活用していただき、意識的に取り組んでいただけたらと思います。
<参考>
・外国人労働者の人事・労務に関する3つの支援ツール<外部リンク/厚労省>
・雇用管理に役立つ多言語用語集(10言語)<外部リンク/厚労省>
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