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能登半島地震 
大学の取り組み

1月1日16時10分、令和6年能登半島地震が発生した。石川県金沢市にキャンパスを置き、能登地域にも教育・研究施設を複数設置している金沢大学では、発災の数時間後に災害対策本部が立ち上がり、迅速な災害への対応がスタートした。留学生たちの様子や大学の取り組みについて、金沢大学国際部留学企画課長の山本秀樹氏からお話を伺った

◆初動と大学の対策
―発災直後の様子を教えて下さい。

1月1日の発災後、私どもの国際部では、まずは学生留学生宿舎の状況を確認するために職員が宿舎に向かいました。本学は震源地から距離があったため、建物倒壊やけがをした学生などはいませんでした。部屋の棚から物が落ちることは多くあったようです。
 
しかし、留学生たちに声をかけると、地震を経験することが初めての学生が多く、日本人が思う以上に精神的な不安がとても大きいと感じました。玄関前で立ちすくんでいる留学生もいましたし、部屋に戻るのが怖いと言っている留学生も多数いました。そこで、声を掛け合ったりメーリングリストを使って、宿舎内にある交流スペースに学生を集めて、建物被害がないことや震源地が大学キャンパスから離れていることなどを説明しました。そして、部屋に戻るのが不安な学生のために交流スペースを開放して、落ち着くまでそこで過ごしても良いことにしました。

宿舎では、防災訓練の成果もあり、レジデント・アドバイザー(以下、RA)の日本人学生が、発災直後の初動の段階で、入居している学生たちに声掛けをして避難を促したり、不安に感じていないか気を配ってサポートしてくれていました。まだ職員が到着していない時だったのでこれは大変心強かったです。
―大学としての取り組みはいかがでしたか。

災害対策本部での会議
災害対策本部での会議
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発災後すぐに、学長をトップとした災害対策本部を立ち上げました。その指揮の下、各部が動き随時情報を共有する形で対策を進めました。学内システムを使って安否確認をしましたが、最後の数名はなかなか確認が取れない状況でした。留学生に関しては、1月9日時点で、全員の安全が確認できました。システムからの発信だけでは不十分で、所属する研究室の教員や友人を通して確認が取れるケースも多かったです。

本学では、日ごろから日英併記で情報を出していますが、今回も、避難所情報や県の防災ポータルなどの情報を英語でも発信しました。英語でも相談できるワンストップ窓口も設置していましたが、相談数はそれほど多くはありませんでした。友達同士や教員、各部局の職員らと連絡を取り合って解決していたようです。

1月5日には、心のケアの重要性から、心のケア専門チームを立ち上げました。

◆住まいの確保
―宿舎の無償提供もされています。 

建物の被災で家に住めなくなった学生には、大学の宿舎を無償提供する支援も始めました。能登方面に住んでいた留学生2名からも、住まいについて相談があり、無事宿舎に入ることができました。また、宿舎の高層階に住んでいた留学生からは、怖くて部屋に戻れない、眠れないと相談があり、一時的に下の階に移動できるよう対応しました。



◆教育・研究活動の継続

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現地でボランティアをする学生と教職員たち

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1.5次避難所での活動の様子

―1月22日には、交流協定校のオルレアン大学の学生が来学して、1週間滞在したそうですね。

はい、もともと予定していた交流プログラムを無事に実施できました。我々も、高等教育機関として、国内外に対して、大学としての対応や大学の状況を正しく情報発信することに努めています。教育・研究活動は続けていると伝えていましたので、安心して来てくださったのだと思います。

◆災害復興に向けて
―1月30日には震災からの復旧・復興に向けて「能登里山里海未来創造センター」が立ち上がりました。
 
総合大学である金沢大学の英知を集結し、中長期的視点から、能登における教育、医療、文化、産業の復興・再生そして継続的発展を強力に推進するため、「能登里山里海未来創造センター」を設置しました。センターには、復興に向けた構想の立案、心のケア、医療、教育、調査研究、ボランティアなどの各支援チームを設置し、総合的に対応する体制を整えています。被災地に立地する国立大学として被災地に寄り添い、自治体等と協働し震災からの復旧・復興及び支援に全力を尽くします。登録制にしているボランティアも、569名(3月18日時点)が登録し、ボランティア活動を行っています。

◆組織としての危機管理対策

まず、災害・事件・事故はいつ発生するか分からないので、起きた時にどう動くか、マニュアル化してすぐに動けるように備えることが、組織として大切だと感じます。本学では、毎年防災訓練をしていますが、平日の業務時間での実施です。しかし、今回は元日で、職員が不在の時の発災でした。災害対策の事前準備にはあらゆる想定が必要です。その点、先ほどお話したように、RAの日本人学生が、宿舎での消防訓練やマニュアル等に記載の非常時対応を把握しており、すぐに初動の判断をして行動を起こしてくれたことは非常にありがたかったです。一方で、正月で帰省をしているRA学生もいたので、もう少し人数がいた方が良かったという指摘もありました。

また、宿舎にも大学にも災害時の備蓄があるのですが、職員が来て担当者が鍵を開けないと使うことができません。少なくとも宿舎には、すぐに誰もが取り出せる形で防寒具や備蓄を備える必要性を感じました。

もう一つ、特に重要だと感じたことは、人とのつながりです。日ごろからコミュニケーションがよくとれていれば、災害時の安否確認や正しい情報の伝達、不安な時の相談などもスムーズに進みます。留学生同士、研究室内の先生と学生同士、職員と学生など、人と心のつながりの網が、縦横斜めと多方向に強く繋がっておくことが大事ですね。学内だけではなく、留学生と地域社会との交流の機会もより増やしていきたいです。



・金沢大学被災学生・施設支援等基金
・能登里山里海未来創造センター


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