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アジア起業家村構想 


アジアベンチャーの起業支援  「21世紀型経済」を創造


 今月は、「アジア起業家村構想」を推進する川崎市経済局の、福芝康祐氏にお話をうかがった。


アジアのパワー取り込む


――アジア起業家村構想とはどのようなものですか。
 福芝 2003年5月に国から認可された「国際環境特区」において川崎市が展開しているもので、アジアのベンチャー起業家による川崎での創業を支援し、成長著しいアジアのパワーを取り込むことで、最終的には世界に貢献する新産業を育てていこうという構想です。
 川崎市は、高度な基盤技術を有する中小企業の集積、過去に環境問題を克服した技術の蓄積や、鉄道沿線に民間・大学あわせて200以上の研究機関があるなど、産業集積のポテンシャルが高い地域です。
 あるシンポジウムにおいて「川崎ならアジア起業家村構想が実現できるのではないか」と市長が発言したことをきっかけに、2004年1月に民間任意団体の「アジア起業家村推進連合会」が発足し本格始動しました。
 今年11月には韓国とベトナムのベンチャー企業が、拠点である「テクノハブイノベーション川崎(THINK)」への入居を決定しました。いずれも、自分たちが培った技術と日本の最先端技術・独自技術をマッチングさせて作った製品を、中国や韓国といったマーケットに展開したいという企業です。
 ベトナムのブイテックメイトは、組み込み型ソフトウェアの開発会社で、ベトナム人元留学生が日本で創業する最初の企業です。
 創業者のグェン・ミン・ドゥック氏は電気通信大と東大大学院を卒業後、東芝をスピンオフし、日本で学んだ成果を母国に反映させようと、大学の後輩のベトナム人と共に起業しました。彼らは設計やサポート面で日本の高度な技術や熟練した技能と連携できる点にメリットを感じ、アジア起業家村に応募しました。
 このように、アジア各地からの起業家に日本の技術を活用してもらい、ゆくゆくは母国で大きく成長していってもらうことで、世界の産業の発展に貢献しようというのが起業家村構想のコンセプトです。
 今は国際貢献といっても、従来の海外に出て行く一方通行のものから、外国の方々に日本に来て頂き何かを共に行って頂くという形のものへと変わってきていると思います。最近は日本でも外国人労働力の受け入れに関する議論が活発化しており、「過度の受け入れは日本人の労働市場を圧迫する」という声もあるようです。しかし今は国際分業・連携が当たり前ですから、あまり国境などにとらわれている時代ではないと思います。この特区構想が実現すれば日本社会全体で外国人受け入れが進んでいくきっかけになるでしょう。


地域経済を再活性化


 また、この構想には、弱くなってきた日本経済を復興させようという意図もあります。現在、生産拠点は中国など人件費が安い海外に流れていき、川崎の産業は空洞化しています。そこで、発想を逆転させ、成長著しい海外のパワーを取り込むことで地域経済を再活性化しようというのです。
 設計開発を行う小さなベンチャー企業は自前で大きな工場設備はもてないので、試作などを行う中で様々な受発注が近隣企業との間に起きてきて、結果的に地元に経済効果をもたらすということがあります。
 今までアジア諸国は競争相手どうしであったかもしれませんが、これからはそのように互いに補完し合い助け合って、自国とアジアが共に発展する「21世紀型経済」を創造していくべきです。それがアジア起業家村構想の掲げる大きな目的なのです。
 ですからアジアの頭脳というべき多くの優秀な方々に来て頂きたいと考えています。去年、中国や韓国をはじめとするアジア出身の留学生等を対象に、創業意欲についてのアンケート調査を行いましたが、7~8割は「将来会社を興して社長になりたい」と答えています。日本の大学生に聞いても、卒業後会社を起こして社長になりたい人は50~100人のうち1人いるかいないかでしょう。留学生は創業意欲が非常に高いのです。ブイテックメイトの創業者の方も今の日本の学生とは目の輝きが違います。日本では学校を卒業しても親元に居て働きもしない「ニート」と呼ばれる若者の増加が社会現象となっている一方、外国の方たちは、現在国自体が急カーブで成長しており、自分達がその担い手であるという意識を持っています。日本の高度成長期に活躍したサラリーマンのようなパッションが彼らから感じられるのです。そういうエネルギーが、国内の大学や企業にいい影響を与えるだろうと思います。


――市が行う具体的な起業支援の内容は。
 福芝 特区として外国人研究者の在留期間を通常の3年から5年に延長する特例措置を実施している他、市では入居者に対して経営・会社設立相談、言語・医療相談など、ビジネスと生活の両面にわたり、外国人特有の問題を解決するためのサービスを行います。
 また、初期投資がかさむ企業にはTHINKへの入居費を軽減する措置を講じます。今年度の入居者に関しては一年目の賃料は無料です。THINKには10~30坪の部屋が29あり、入居中の日本企業とコラボレーションしようという動きも出ています。今後さらに海外から10~20社入居すれば、棟内だけでも世界をターゲットとした様々な事業連携が起きてくるでしょう。その実現に向け、いま取組んでいるところです。