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植物製ケータイ 


世界初の植物製プラスチックボディー  二酸化炭素排出量を50%削減


 今月は、「植物製ケータイ」を開発した株式会社NTTドコモの、プロダクト部第三商品企画担当課長、廣澤克彦氏にお話をうかがった。


身近なものをエコ製品に


――植物製ケータイとはどのようなものですか。
 廣澤 NTTドコモグループ9社(以下、ドコモ)では従来より様々な環境保全活動に取り組んできましたが、今回その一環として開発したのが、世界で初めて「ケナフ繊維強化バイオプラスチック」をボディに使用した植物製ケータイ、FOMA「N701iECO」です。
 ケナフ繊維強化バイオプラスチックとは、とうもろこしを原料とする従来のポリ乳酸を素材としたバイオプラスチック(生分解性プラスチック)に、補強材としてケナフ繊維を添加することで、耐熱性や強度を改善した環境配慮型のプラスチックです。
 開発の背景には、毎年1000万台規模で携帯電話の買い替えが進んでいる国内の現状があります。それほど大量の端末を新しく作るのであれば、製造段階から環境に配慮することで、地球温暖化の防止に貢献できるだろうと考えたのです。
 ドコモでは資源循環型社会の実現を目指し、例えば、太陽電池と風力発電で基地局の電気をまかなう「エコ基地局」という試みや、使用済みの携帯電話を責任を持って回収しリサイクルする「カムバックキャンペーン」などを行ってきました。リサイクル率についてはほぼ100%を達成しています。これらの活動の上に、今回はユーザーの皆さんに一番分かりやすい「端末」をエコ製品にすることに取り組みました。携帯電話という身近なものを皆様が実際に使う中で、環境問題を少しずつ意識できるようにしていこうというのが、この製品の狙いとするところです。
 技術面では、従来の製品と同レベルの十分な強度を確保することを目標としました。従来のポリ乳酸という材料はそれだけでは強度と耐熱性が不足しているため、ポリ乳酸が50%弱、残りを従来の石油製品といった割合で混ぜ合わせて補強するのが一般的でした。その石油系の補強剤のかわりにケナフを用いたことで、実に90%もの植物化率を達成することができました。もともとバイオプラスチックは、微生物によって分解されて土に戻る生分解性と、土に戻さずに材料そのままでもリサイクルできるという二つのメリットを持っていますが、材料の植物化率を向上させることによってさらに石油の消費量を抑制し、CO2の排出量を削減することができるようになりました。
 しかし、ケナフ繊維強化バイオプラスチックの使用でCO2が削減できる最大の理由は、材料となるプラスチック用のトウモロコシとケナフを計画的に栽培する必要性が生まれるからです。つまり、それらは植物である以上、光合成で二酸化炭素を吸収し酸素を出してくれますので、原料を栽培することがCO2排出量の削減につながるのです。特にケナフは普通の木に比べて3~9倍ぐらいCO2の吸収力が高く、この点は非常に高く評価されるべきだと思います。このケナフを用いることにより、栽培時からプラスチック製造時までのCO2排出量を従来と比べて50%削減することに成功しています。


企業の社会的責任


――企業として目指す製品開発の方向性は。
 廣澤 エコ端末と言っても、ユーザーの皆さんにとっては単にボディの材料が変わっただけですので、変化を実感できる要素は少なく、取り組みとしては非常に地味なものに見えるかもしれません。しかしドコモとしては、まずこのような第一歩を踏み出すことこそ重要なのだと考えています。もちろん、ユーザーの皆様に我慢を強いないということはメーカーとしての大前提です。エコロジーを突き詰めると「携帯電話など使わなければよい」という結論に至りますが、それはいわば、ずっと今まで自動車で通勤してきた人にいきなり自転車通勤を始めなさいというのと同じことです。「エンジンをハイブリッドにしますからどうぞ車をそのまま使ってください」といえるように努力することこそが、メーカーとしての責任であると考えます。ドコモとしては、今回のN701iECOで終わりにするのではなく、これ以降の製品開発をいかにして進めていくかが、企業として課せられた大きな社会的責任であると考えています。