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平面スピーカー 


耳をつけても離れても鮮明な音  「音で音を消す」新技術で騒音問題も解決


 今月は、「平面スピーカー」を開発した株式会社エフ・ピー・エスの堀昌司社長にお話を伺った。


厚さわずか7ミリ

――平面スピーカーとはどのようなものですか。
  80年近く大きな進歩のなかったスピーカー技術を根本的に革新したスピーカーで、ホワイトハウス、衆議院本会議場、中国人民大会堂中ホールなどですでに採用されています。厚さはわずか7㍉、重量も従来の箱型スピーカーと比べて5分の1で、音域も広く明瞭な音が出せるなどの特長を備えています。
 何よりも画期的な点は、「平面波」といって波の形そのものが異なる全く新しい音を作り出したことです。コーン型と呼ばれる従来の箱型スピーカーが出していた音は「球面波」といって四方八方に音が拡散しますので、距離が遠くなるほど音が弱まります。3m離れると音は9分の1になりますので、スピーカーの前ではうるさく、離れれば聞こえにくくなるわけです。それに対して平面波は前にだけ進むため衰えにくく、平面スピーカーに耳をつけても離れてもほとんど同じ音量で同じように聞こえます。そのため部屋の中ではどこにでも音源があるような状態になります。遠くまで音が響く日本の太鼓も、一種の平面スピーカーのようなものと考えられます。
 この新しい音を出すことに成功したわれわれが次に取り組んだのは、音を用いて音を消し、騒音問題を解決する技術の開発です。音を拾うと同時にその音の波をちょうど180度反転させた波を出し、ぶつけ合うことで音が打ち消されるというもので、10分の1にまで騒音を抑えることが可能です。今年の夏にも製品化される予定で、さらに技術を進歩させれば高速道路の防音壁も低くでき、景観を十分に楽しむことができるようになるでしょう。


リサイクル率は世界一

――製品のリサイクル性も非常に高いと聞いています。
  その通りです。現在生産されているスピーカーの99%はコーン型で月産1億7000万個に上っていますが、リサイクル率は35%しかなく、65%は産業廃棄物として焼くかどこかに捨てられています。このままでは作れば作るほど資源の無駄遣いになってしまいます。そこでわれわれは、どうせ新しいものを世に出すなら最初からきちんとリサイクルできるものを開発しようと考えました。平面スピーカーは箱を必要としないのでもともとリサイクルに適していますが、それに加えて接着剤を使わない、部品点数を減らすなどの工夫を凝らした結果、99%まで再利用できるようになり、スピーカーとしてはリサイクル率世界一を誇っています。来年には車やパソコン、テレビなどに当社の製品が付くようになる予定です。
 このリサイクル率の高さはモンゴル政府からも認められ表彰されました。3年前に開催されたアジア環境大臣会議で、日本の環境大臣が「リサイクル率世界一のスピーカーがあります」とスピーチで取り上げてくれたのです。そのときレセプション会場では当社のスピーカーが実際に設置され音を出していました。ちょうど雨が降っていたのですが、従来の製品と異なり水にぬれてもまったく問題がなく、むしろ水の中でも鳴るくらいです。参席していたモンゴルの環境大臣はこのような当社の製品にいたく感動し、毎年世界の環境製品の中から選定している「エコプロダクツ製品」に定めてくれたのです。表彰のため呼ばれて現地に行くと、モンゴルの音響施設についてのコメントを求められました。モンゴルはバレエオペラのレベルが世界のトップクラスで、馬頭琴などすばらしい音楽もあるのですが、音響設備は古く設置の仕方もいいかげんでした。それで「音を扱える専門家をこの国につくる必要がある」と言ったところ、モンゴル国立人文大学の学長から「ぜひ本学でやってほしい」と要請を受けたのです。そこで私は音響設定や測定、マネージメントの仕方までまとめて教える720時間のカリキュラムを作り、周囲の社員らにも声をかけてボランティアで講義をしに行きました。私が一人5000円の奨学金を出し、20人の定員枠で受け入れることにしましたが、学生募集広告を新聞に出したところ280名もの応募者が来ました。卒業生には音楽の現場で働こうとする人や、来年当社に来たいという人もいます。企業の国際貢献の一つの形として、このような自前の講座は良い試みではないかと思います。当社としては、世界の騒音問題を解決するソーシャルカンパニーであろうとする以上、得た利益をどの国にどのような形で投入するかということにもまた企業としての責任があるのだと考えています。