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再生自転車の海外譲与活動 


人々の命を救う再生自転車  途上国で母子保健の向上に貢献


  今月は、開発途上国へ再生自転車を贈る活動を推進している、財団法人ジョイセフの高橋秀行理事にお話をうかがった。


世界でも例のない活動
――再生自転車の海外への譲与活動とは。
  ジョイセフ(家族計画国際協力財団)では、日本の13の地方自治体と再生自転車海外譲与自治体連絡会(ムコーバ)を結成し、アジア、アフリカ地域など90カ国の草の根保健ボランティアに対して、20年間にわたり5万台以上の再生自転車を贈ってきました。このような活動は世界でも例がなく、国際的にも関心を集めています。
  ジョイセフは母子保健の向上を活動目的とするNGOで、特に乳幼児死亡率の削減と妊産婦保健の向上に取り組んでいます。これに再生自転車が大きく貢献しています。乳幼児と妊産婦が死亡する隠れた大きな原因の一つは「手遅れ」です。途上国の人々は公共交通機関に手が届かず、病院まで片道5キロ、10キロの距離を歩いていくうちに親の背中で赤ちゃんが死んでしまったという話はたくさんあるのです。そのような地域で自転車が使われ始めたことによって、多くの母と子の命が救われたとの報告が各国から届いています。
  母子保健の重要性はいうまでもありません。一家に母親がいなくなると子供を育てられなくなり、ストリートチルドレンが出始め、夫一人では支えきれず家庭を捨てて逃げていってしまうケースもあります。そして家庭とコミュニティーが崩れ始めます。現状として世界の妊産婦と乳幼児の死亡率は全く下がっていません。援助を草の根の社会的弱者に届けることがいかに難しく、届くように援助していることが如何に少ないかということの裏返しです。そのような途上国の人々の生活を、何とかしてあげたいとの気持ちで活動を続けてきました。
  最初のきっかけは、視察でウガンダを訪れたとき、現地の女性に「一台で良いから自転車がほしい」と訴えられたことです。そのとき悟りました。なぜ今まで各国でそういう声を聞かなかったのか。例えば政治家が人々に様々な援助の話をしますがほとんどがリップサービスであり、住民もそれを分かっていますので簡単には信用しません。満足して何もいわないのではなく、言っても無駄だと諦めているのです。ですからその女性は、わらをもすがる思いで外国人である私に訴えたのだろうと思いました。最初、現地の協力者は、「本当に話しをする内容を実行するなら悪口を言われることも覚悟で伝えるが、単なる打診のみで結局送らないのであれば、住民のために話さないほうが良い」と言ってきました。私は帰国後、実現させるにはどうしたら良いか考え続けていました。あるとき豊島区が放置自転車を再生してマレーシア・フィリピンに送ったという記事を読みました。同じ事を考えている人がいるのかもしれないと思い〝ダメもと〟で連絡してみました。結果は非常にスムーズに話が進んで協力関係を結べることになり、実際にウガンダに再生自転車を送ることができました。それが届いて初めて住民は納得をし理解を示し、諦めという大きなハードルを乗り越えてお互いに一歩踏み込んだ関係をつくることができたのです。


ボランティアが活躍

  現在、途上国で再生自転車を譲り受けた人は、家族計画・母子保健推進員、草の根保健ボランティアとして活動しています。本来それは行政が行うべきサービスですが、市町村レベルではボランティアに頼らざるを得ません。そういう環境にある人々に対し我々は、「母と子の命に関わる問題に何とか取り組んでほしい」とのメッセージとともに再生自転車を届けています。受け取った人は、自分は選ばれて自転車を与えられたのだと受け止め、非常に誇りに思うでしょう。ボランティア活動を行う原動力は、自分が周囲から認められていることの嬉しさや誇り、使命感であり、これがあって活動を続けられるのです。
  日本から再生自転車を送るにはスペアパーツの購入や現地に届ける輸送の費用がかかります。自転車は新品同様に整備して送りますし、内陸輸送を伴うアジアやアフリカへ送るには1台1万円かかる場合があります。ジョイセフでは使用済み切手などを集めて業者に買い取ってもらい、その換金した資金を現地への輸送費にあてています。それならむしろ現金を送って支援したほうがいいのでは、と合理的に考える人もいるかもしれませんが、そのお金は実際には地域の有力者のところに行ってしまい、全く違った目的に使われてしまうのです。再生自転車の譲与活動は、途上国支援におけるもう一つの大きな壁をも乗り越えています。現地の人々は、お金や四輪駆動車よりも、自分たちの意思で使えて実際に何百人もの命を救える自転車を送ってもらったほうがよほどありがたいのです。
  途上国支援に携わる中で、逆に我々自身がお金では買えない貴重なものを途上国の人々から教えられることが多いです。自分が今どういう位置にあり、何に生きがいを感じ、お金はあっても何が不足しているのか。こういう大切なことを教えてくれるのですから、実は我々が途上国から援助されている部分も相当に多いのです。国際協力を行う中で、途上国との間ですばらしい贈り物を交換しているように感じています。