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地熱発電 


クリーンな純国産エネルギー  二十四時間安定供給が可能


 今月は、地熱利用の促進をはかる日本地熱学会の江原幸雄氏にお話を伺った。

温暖化対策に有効
――地熱発電とは何ですか。
江原 火山や温泉がある地域には、深さ数kmの比較的浅いところに1000℃前後のマグマ溜りがあります。地中に浸透した雨水は、そのマグマ溜りによって加熱され、高温の熱水と水蒸気の貯留層を形成することがあります。そこから蒸気を取り出し、タービンを回して発電するのが地熱発電です。
  地球は莫大な熱エネルギーの貯蔵庫で、体積の99%が1000℃以上の「火の玉」です。再生可能エネルギーの中では地熱の資源量が圧倒的に多く、また、日本はアメリカ、インドネシアに次いで世界3位の地熱資源大国となっています。しかし現在の日本のエネルギー自給率は4%程度しかなく、危機的な状況です。火力発電が海外からの石油・石炭の輸入なしには成り立たない発電方式であるのに対し、地熱発電は国内の資源を用いる純国産エネルギーであり、海外市場の影響を受けにくい点は、常に安定した供給が求められる電力需要にとっては大きなメリットです。
  また、地熱発電は燃料を燃やす火力発電(や原子力)とは違って地下の蒸気を直接使うので、二酸化炭素の排出がほとんどなく、地球温暖化対策として非常に有効です。発電量当たりの二酸化炭素排出量は火力と比べて10分の1~100分の1と圧倒的に低いです。
  さらに、太陽光や風力に比べて天候に依存せず24時間安定供給できるので、基盤電源として活用できます。実際に日本では地熱の発電量が太陽光の発電量を上回っています。
  発電だけでなく、温泉、プール、融雪など比較的低温な地下の熱を直接利用することも広く行われています。最近では地下と地表との10~15度の温度差を利用した地中熱冷暖房も盛んです。地下50mの温度はほとんど一定で、夏は気温より地中温のほうが冷たくなるので、地中の冷気を取り出して冷房します。また、大気中に排熱を出さず、ヒートアイランド対策にも有効です。効率が良いので電気料金が半分になるメリットがあり、地球環境に優しい分散エネルギー利用の一形態として環境省も推奨しています。公共施設から普及させることを目指しており、東京都は導入に積極的な姿勢を見せています。


国土に眠る莫大な資源
  このように地熱エネルギーには多くのメリットがありますが、見掛け上のコストがまだ石炭や原子力より少し高いので、日本ではまだ大きく広まっていません。しかし実際には原子力発電は廃棄物処理にコストがかかり、また、原発一機廃棄するのに建設と同じぐらいのお金がかかっています。地熱発電はボーリングなどに初期投資はかかりますが、一度発電所を作れば燃料が不要ですので時間がたてばたつほどコストは安くなるのです。
  世界では地熱の利用は重要な地球温暖化対策・エネルギー対策の一つとして認識されています。インドネシアでは国家としての明確な地熱発電の数値目標を掲げ、開発のロードマップを定めています。EUやオーストラリアでは、火山性の蒸気の貯留層がない地帯でも地熱発電ができる「高温岩体発電」を始めています。地下深く穴を掘って水圧で地下に割れ目を作り、水を送って高温の岩石の熱で蒸気や熱水を得る方式です。日本では稼働中の地熱発電所が18ヶ所ありますが、2000年以降は新規の建設がなく、莫大な資源が国土に眠っている状況です。低炭素社会を本当に実現するためには、国による地熱開発の促進が必要であり、さらに地熱に限らず全ての自然エネルギーを最大限に活用していく必要があるのです。
  2008年7月には、太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギー関連諸団体による「自然エネルギー政策プラットフォーム(JREPP)」という統合的団体が発足し、数値目標を盛り込んだ「2050年自然エネルギービジョン」をまとめました。2050年には全電力量の3分の2を各種再生可能エネルギーで賄い、地熱では10・2%を供給することを目指しています。これまで化石資源や原子力に大きく頼ってきた電力供給のあり方を見直し、エネルギー源を多様化することでセキュリティーを確保する狙いもあります。
  地熱資源をもつ日本は、世界的にもそれを開発利用していく大きな責務があり、関連政策の確立が急務です。我々は政府に働き掛けながら、自然の恵みを皆で一緒に利用していけるような社会のしくみ作りを促していきたいと考えています。


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