Top向学新聞21世紀新潮流>綿繊維リサイクル


綿繊維リサイクル 


綿繊維からバイオエタノール  家庭の「タンス在庫」を資源に

  今月は、綿繊維をバイオエタノールにリサイクルする技術を開発した、日本環境設計株式会社の吉村知恵氏にお話を伺った。

高効率でクリーン
――繊維リサイクルの現状とその意義について教えて下さい。
吉村  現在、一般衣類やふとん等も含め、国内では年間200万トンの繊維製品が未利用のまま廃棄されています。その5~6割を占める綿繊維から、石油代替燃料として期待されるバイオエタノールを作る技術を世界で初めて開発しました。繊維製品のほとんどは可燃ゴミに混ぜて捨てられていますが、綿約120万トンから85万キロリットルのバイオエタノールを生産することができます。政府が掲げるバイオマス・ニッポンの目標では2030年までに年間600万キロリットルのバイオエタノール生産を目指していますが、その7分の1をまかなえる計算です。

――技術的な仕組は。
吉村  綿繊維にはエタノールの原料となるセルロースが95%含まれており、それを酵素でぶどう糖に変え、酵母で発酵させてエタノールを作ります。食料由来のエタノールは製造コストが安いですが、将来的に食料需要と競合してしまいます。そこで、もともとゴミとして捨てられるはずだった繊維を有効活用できればと考えたのです。使われてぼろぼろになった繊維製品のほうがエタノールになりやすく精製時間も短縮できますので、まずは不用になった衣料品を集められる仕組みを作り、将来的に布団や旅館で使われているタオルなど繊維製品全体も資源として有効活用していきたいと考えています。
  現在、タオル生産量日本一の愛媛県今治市で、リサイクルの実証実験を行っています。1トンの綿繊維から約700リットルのバイオエタノールができます。できたバイオエタノールは自動車の燃料用途としてもちろん可能ですが、それに使うよりも、染色工場のボイラー燃料で重油代替燃料として、再びモノ作りのために使うことで製造過程での重油の使用量を削減し、地産地消の循環型社会の構築につなげようとしています。繊維産業にリサイクル産業や二酸化炭素クレジットの市場などを結び付ければ、少なくとも2000億円程度の新市場が創出できると見ています。
  リサイクルは技術と回収の両輪がまわってこそ事業として成り立ちますが、現在は技術よりもむしろ回収のほうが課題となっています。もちろん、事業者から排出される繊維くずなどの廃棄繊維を集める仕組みは比較的容易に構築可能ですが、問題は国内廃棄繊維の大部分を占める一般家庭に眠る衣類のタンス在庫をどうやって回収するかです。繊維リサイクルには一般消費者の参加が不可欠です。これまでなぜ衣食住の中で衣のリサイクルだけが進まなかったかといえば、繊維の縦糸と横糸で素材が違ったりボタンやチャックが含まれていたりする「素材の複合度の高さ」や、「製品多様性およびファッション性」のため技術的に難しかったということもありますが、それ以上に消費者が繊維リサイクルに参加できる社会的な仕組みが構築できていなかったことが大きな原因です。
  そこで弊社では、経済産業省と独立行政法人中小企業基盤整備機構の支援する繊維製品リサイクル・モデル事業の事務局となり、今年8月から10月にかけて、不用となった服の回収実験を無印良品とFLAXUSの店舗で行いました。お客様の反応は非常に良く、多くの方が、「環境に貢献できるから」「処理に困っているから」との理由で参加して頂きました。小売業者からは「売り上げと集客につながったのでまた来年も実施したい」との声を頂いています。市民の環境意識はかなり定着しており、100%リサイクルできることをしっかり伝えられた店舗は回収に成功していました。今後、小売業者がメリットを感じて自主的に取り組めるようにするためには、まず消費者が回収にメリットを感じて楽しくリサイクルに参加してもらえる仕組みが必要です。われわれは繊維をリサイクルする世の中の「風潮」を生み出したいのであって、そのため最も回収しにくい一般衣類にあえてチャレンジしようとしています。誰も挑戦しなかったからこそ我々が挑戦する意味があると考えています。
  メーカーがモノを作って小売業者が売るだけの社会から、消費者がモノを小売業者やメーカーに持っていきリサイクルする社会になっていけば、循環型の社会になると思います。また、その考え方や仕組みを途上国にも伝えていくことで地球はもっと良くなります。綿のほかにもナイロンなどの優れたリサイクル技術が日本にはありますので、オールジャパンで循環型社会作りに取り組み、日本発繊維リサイクルの世界標準の動きにしていってもいいのではないでしょうか。


a:10521 t:1 y:1