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メンタルコミットロボット・パロ 


言葉を認識、高いセラピー効果  介護での精神的負担を軽減

 今月は、メンタルコミットロボット「パロ」を開発した内閣府の柴田崇徳氏にお話を伺った。

人の心に働き掛ける

――パロとはどういうものですか。
 柴田 人の心に働き掛け、楽しみや安らぎなどの効果を与えるアザラシ型のセラピーロボットです。ペットをセラピーに用いる研究が1960年代から行われてきましたが、本物の動物では噛みつき事故等があるので医療福祉施設への導入は困難です。そこで産業技術総合研究所(産総研)では動物型ロボットの開発に1993年から着手し、あたかも心を持った生き物のように感じられるようにするため、何度も心理実験を重ねながら「パロ」を完成させました。
 使用対象は、一般家庭の方や、医療施設で長期入院中の子供たち、高齢者施設の利用者さんなどです。パロのセラピー効果は科学的に実証されており、鬱を改善し元気づける心理的効果、ストレスの低減や免疫系の活性化などの生理的効果が確認されています。また、認知症の方がパロと触れ合って楽しむうち、一時的に健常者レベルまで脳活動が改善する例もありました。人と人との会話を作り出すきっかけになったり、昔飼っていたペットやなくなった旦那さんなど様々なことを思い出し、会話が増える社会的効果も確認されています。
 また、重度の認知症で、暴れたり叫んだりするため薬物を与えて寝かせていた人の前にパロを置くと、スッと落ち着いて笑顔になったりします。薬を飲ませた場合30~40分後には眠って倒れたりするのでずっと介護者がついていなければなりませんが、そういった副作用がなくなることは介護者と本人双方にとって幸せなことでしょう。パロは介護者やセラピストに完全に取って換わるものではありませんが、彼らが持つケアのスキルをスムーズに発揮させることができるのです。

――パロ本体の機能については。
 柴田 ペットとして10年以上一緒に生活して頂くことを考え、耐久性や信頼性を重視して設計し、産総研が設立した富山の企業が一体一体手作りしています。飼い主との関係を築けるように名前や行動を学習する機能を備えており、髭や体中に張り巡らされた触覚センサーで人がどこを触っているか感知して、なでられると心地よく感じたかのような行動が出やすくなる評価学習の機能を備えています。あいさつやほめ言葉などを認識し、何種類もの鳴き声で答え、まぶたや頭、前脚、後脚を動かして反応します。職人が一体に2時間かけて毛をカットするなど、手間をかけてクオリティーを追求し、動物嫌いな人でも抵抗を感じずにそばにいられるような存在を目指しました。

――海外での受容は。
 柴田 従来のアニマルセラピーに代わるものとしてロボットセラピーが認められてきています。デンマークでは認知症の高齢者で実証実験を行い、その効果が高く評価されました。現在、精神障害者施設、発達障害者施設など100か所以上に導入され、大変喜ばれています。また、使用者による会議も数カ月に一回開催し、事例やノウハウを交換する場を設けています。そこから次のニーズを見出し、例えば認知症のためのパロA、自閉症の子供たちのためのパロB、精神障害者のためのパロCなど最適化されたタイプを開発するための基本情報を集めています。アメリカでは昨年9月にFDA(食料医薬品局)がパロを医療機器として認定し本格的に導入を始めました。その他約30ヵ国で導入されており、メンタルコミットロボットの新しい市場ができつつあります。
 日本では2005年の販売開始以来1000体以上が販売されましたが、個人への販売が7割近くを占めています。施設等への普及のためには、導入によるメリットをはっきりと示していく必要があります。日本の介護保険で認知症の方にかかるコストが年間一人当たり400万円ですが、パロに触れ合っていただいた方が1年間認知症になるのが遅れればそれだけで400万円が浮くわけです。すでに認知症になっている方でもその進行を遅らせることができれば、省力化や介護者の負担減になりコストダウンが図れます。そして何よりお金に置き換えにくい精神的な面で介護者・本人双方の負担軽減につながります。在宅介護での家族の負担を軽減するためにも、パロは大いに貢献できるでしょう。
 このようにメンタルコミットロボットは、人間の生活の豊かさ、心の豊かさに大きく関わり、QOL(クオリティオブライフ)の向上に資するものです。現在実用化されているパロは第8世代のものですが、今後もさらに改良を加え、より多くの人に喜びを与えられるものにしていきたいと考えています。



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