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マイクロマシン 


細胞より小さな機械を作る  体内でコントロールし治療

 今月は、マイクロマシンの研究を行う横浜国立大学の丸尾昭二氏にお話を伺った。

組立作業は不要

――マイクロマシンとは何ですか。
 丸尾 一般に1ミリメートル以下の小さな機械のことですが、我々が開発しているのは細胞よりも小さなマイクロメートル級の大きさの機械です。我々はそのような超小型の機械を作るための3次元微細加工技術を研究しています。光を当てると固まる液体樹脂にレーザー光を動かしながら当て、わずか2~3分間で細胞よりも小さな立体を自由に作れます。例えば10マイクロメートルという毛髪の直径の3分の1の大きさのウサギのモデルや、歯車などの動く立体を作ることができます。歯車の中にシャフトが通って動く状態で一体として出来上がるので、組み立て作業は不要です。

――細胞より、小さい機械なのですか?
 丸尾 そうですね、例えば細胞の3~4分の1の直径4マイクロメートルのローターを回し、液体を送る超微細マイクロポンプの研究を行っています。ローターは光で遠隔操作して非接触で動かします。光は運動量を持っており、鏡に反射した時には実はミラーを若干押しています。10のマイナス12乗、ピコニュートンという非常に小さな力ですが、水に浮く直径10マイクロメートルのローターに数ピコニュートンの力が加われば動きます。ミラーを操って光を自由な位置に持っていき、遠隔操作で回転方向や速度をコントロールすることが可能です。この仕組みを用いて、細胞より小さな物体をつかめるマイクロピンセットを作りました。細胞やバクテリアを掴んで操るためのツールであり、細胞の手術などに使えます。
 また、バクテリアで自律的に動くモーターも研究しています。魚のえらに棲む体長1マイクロメートル程度のバクテリアをガラスの基板の上におくと走りまわります。それに小さなビーズ玉を背負わせ、基盤にはビーズ玉の誘導レールを作って、バクテリアが動いていくと誘導レールの中心にあるローターとビーズ球が噛み合ってローターが回る仕組みです。これも液体を動かすポンプなどに使えます。バクテリア一匹で回るモーターを作ったのは世界で初めてです。将来的には封印した状態で人体内に入れるか、人体に影響のないバクテリアを用いて実用化することを想定しています。高速に回せれば発電機のようにも使えるかもしれません。
 もう一つのブレークスルーは、光で固まる樹脂以外でも材料として使えるように、鋳型の技術を研究しています。作りたい立体と逆の型を樹脂で作っておき、例えばセラミックスの粉を流し込んで最後に樹脂を燃やしてなくしてしまえば、任意のセラミックスの形状ができます。セラミックスはもろくて三次元加工が難しいというのが定説でしたが、我々の技術では従来の機械加工では削り出せないジャングルジムの格子のような立体も一体成型でできてしまいます。バイオセラミックスを使えば再生医療に使える足場も作り出せます。

――マイクロマシンは体内に入れてコントロールできるのですか。
 丸尾 体内で自由自在に動き回るマイクロマシンは、制御装置、通信装置、駆動源、エネルギーなど様々なものを複合してできる次世代の技術です。例えば現在のカプセル内視鏡は体に入ってはいますが、食道を通って外に出ますので、本当の意味では体内に入っていないといえます。将来はカプセルを細胞レベルにまで小型化し、例えば患部のがん細胞をつまんで取って来るための機能などを開発し組み込んでいくことになるでしょう。
 薬をマイクロマシンで患部に直接持っていく技術はすでに登場しています。薬を入れたチップを飲み込んで、ワイヤレス通信で少し電流を流すと蓋の金属が溶けて薬が出るのです。埋め込んでおいた薬を順番に放出するドラッグデリバリーの一種です。将来的には、薬を必要な時に必要なだけ放出したり、投与したい部分だけに局所的に投与できるオートセンシングを実現し、例えば糖尿病の方の血糖値を測りながらインスリンの放出をすることができるようにして、患者さんの負担を少しでも軽減できれば良いと思っています。

――細胞を狙い撃ちにするので副作用の問題も軽減できる。医学と工学が融合した未来の医療ですね。
 丸尾 横浜国立大学では、2005年に「未来情報通信医療社会基盤センター」を発足させ、横浜市立大学、独立行政法人情報通信研究機構と連携しながら、医学と工学が融合した未来医療の実現を目指しています。2008年からは文部科学省グローバルCOE「情報通信による医工融合イノベーション創生」も推進しており、既存のものに満足しない工学部ならではの発想を活かして、新材料をうまく使いこなしながら装置を作り、医学の新たな進歩に貢献したいと考えています。



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