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トート・ガーボル 氏 
(相模女子大学 学芸学部 子ども教育学科 准教授) 


国際交流は対話による相互作用  外国人教員の増員を

――日本の英語教育の課題とは。
 例えば日本人は英語は話しても、その背後にある文化と行動様式までは身につけていない人が多いです。自分の考えを母国語でさえ口に出さないのであれば、当然外国語で表現することはないでしょう。大切なことは言葉ではなく社会性を身につけているかどうかです。
 私は横浜市の小学校で国際理解プログラムの外国人講師を8年間務めましたが、そこでの教育は文化を教えることでした。小学校6年生まで6人の外国人から学べば異文化への恐怖心がなくなるので、その後進んで外国語を学ぶようになるでしょう。この取り組みは全国化してもいいと思います。
 大学では、日本人学生は留学生を通して異文化と出会います。日本の大学は留学生に日本文化を教えるだけでなく、母国の文化をレクチャーしてもらえるよう頼むべきです。
 国際交流は対話による相互作用です。この意味では日本から海外に行く学部留学生を増やす必要があると思います。例えばヨーロッパでは大学の1年間休みを取って英国でベビーシッターしながら英語の勉強ができ、文化も学べます。ヨーロッパでは外国語(英語、ドイツ語、フランス語など)の中堅レベルの試験の点数を持っていなければ卒業ができませんのでみな本気で英語を学ぶのです。これからの日本の大学教育もそういう方向性を取るべきです。もし試験の中に口頭試問やリスニングがあるなら、日本人と留学生との普段のコミュニケーションも増えるでしょう。
 コミュニケーション教育の推進のためには、留学生、英語授業、そして外国人教員を増やすことが望ましいでしょう。例えばシンガポールの大学では学科内で教員の国籍や民族がすべて違うことも珍しくありません。多文化環境で自分の行動をその場その場のシチュエーションに合わせることができる人が国際人材といえます。国際化は言葉ではなく行動の問題なのです。
 社会に目を転ずれば、日本の企業は大学で学生が学んだ内容や成績を重視しない傾向があります。入社後の社員教育があるからですが、これでは学生は勉強しなくなります。企業が変わらなければ日本の大学のレベルも上がらないでしょう。企業が大学で学んだことを認めて初めてそれが文化の一部になるのです。
 21世紀は能力+コミュニケーション力で人が評価される時代ですが、大学ではコミュニケーションについてなかなか教えません。口頭試問もほとんどなく、これはヨーロッパでは考えられません。私は一年時から通常授業で口頭試問を課しています。自分が学んだことを自分の言葉で先生に教える一番厳しい試験ですが、それができれば自分のものになっていますので一年たっても同じことができます。企業が変わるのが難しいとすれば、教育が変わらなければなりません。


トート・ガーボル
ハンガリー出身。1997年エトヴェシュ・ローランド国立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。2002年横浜国立大学教育学研究科修士課程修了(教育学修士)、2006年横浜市立大学医学研究科博士課程修了(医学博士)。横浜市立大学客員准教授、横浜国立大学非常勤講師等を経て2008年より現職。


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