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福澤レベッカ 氏 
(法政大学 理工学部 教授) 


個々の国の魅力に特化する時代  体験を通じ世界を知ること必要

――留学生受入れの問題点はどこですか。
 予算の問題が大きいと思います。現在本学では、約50名の外国人学生が交換留学生として、約400名が正規学生として勉強しています。例えば、外国人学生が、卒業後も日本で働き、定着するためのステップとしてインターンシップを行いたいのですが、その場合専任の職員を一名増員させなければいけません。また、本学の日本人学生も提携大学に交換留学生として送りだしていますが、派遣の際、返済不要の奨学金を支給しており費用がかかります。派遣人数や提携校も、法政大学の規模から見ればそれほど多くはありません。当然、外国人学生の受入れや支援、日本人学生の送り出しなどの規模や充実度もより向上させたい気持ちはありますが、予算という問題があるのが実情です。国家単位で見ても、日本政府から大学への資金的援助は諸外国と比べて低いことが分かっています。グローバル30採択校程の予算がなければ、交換留学生の受け入れ、派遣人数の増加や就職支援も簡単ではありません。

――法政大学では交換留学生に対してどのようなサポートをしていますか。
 日本語の授業や日本の文学、政治、経済、経営などの授業を英語で行う「ESOP」というプログラムがあります。このプログラムは、欧米のゼミ形式で授業を行っていますが、一定基準の英語能力を満たしている日本人学生も参加が可能です。交換留学生としてやってきた外国人学生は、日本や日本語に強い興味を持っており、日本人学生と共に学ぶ場は、日本の姿を知ることができるいいチャンスとなっています。また、留学を考えている日本人学生にとっても、語学力や国際的感覚を磨く場になっています。以前、就職のプロセスを授業で扱ったことがあります。外国人学生は、日本では大学3年生から就職活動を始めることに驚いていました。逆に、日本人学生は外国人学生が、大学を卒業してから就職活動をすることに驚いていました。外国人学生と日本人学生が共に学び、相互理解を深める環境があることはとても良いと思います。

――外国人教員の受入れという課題もあります。
 以前、日本の大学は外国人教員の受入れに積極的ではないという話をよく聞きましたが、私はそういったことを経験せずに済みました。法政大学の教員採用に応募した時、採用条件に「国籍は問わない」という記述がありました。「国籍は問わない」という記述は、外国人も応募してもいいのだという最も明確なメッセージです。当時、約10カ所の大学へ応募を出しましたが、お話しをいただいたのは、採用条件に「国籍は問わない」と明記した法政大学ともう1校の合計2校だけでした。この体験から分かったことは、日本社会全体が外国人に対して壁を作っているのではなく、一つ一つの組織が外国人に扉を開いているのかどうかということです。

――近年、日本企業が外国人留学生採用を積極的に行うなど変わりつつあります。
 日本企業が外国人学生や留学経験のある日本人学生の採用に力を入れ始めている最近の動きは、良い傾向だと思います。しかし、日本企業の人材に関する考え方は、外国人にとって不都合な部分があるのも事実です。日本企業に勤務しているアメリカ人から、日本企業は10年間のスパンで人材育成を行うため、最初はそれ程責任のある仕事を任せてもらえないという話を聞いたことがあります。また、将来的に母国に戻り家族と共に過ごしたいと考えている外国人にとっては、日本の終身雇用のレールに合わない場合もあります。

――現在、日本より中国へ留学する学生数の方が多く、日本留学の魅力が問われています。
 様々な専門分野で日本は非常に優れており、1980年代には、日本企業の研究や日本の産業に関する著作が爆発的に増えましたが、現在、世界の注目が中国に向けられていることも確かです。いっぽう、ヨーロッパに目を向けてみますと、100年前にイギリスは、アメリカが世界の強大国になっていく姿を目の当たりにしています。ですが、イギリス文化が100年前と比較して価値が低くなったとは言えません。イギリスには、イギリスの素晴らしい点があります。イギリスが100年前に体験した問題に、現在日本やアメリカが直面していると考えられますが、今後は競争というよりも、個々の国の魅力に特化する「質」の時代になるはずです。そして、1位2位と争うのではなく、お互いの伝統や魅力を認めあい、発展していく時代になると思います。

――具体的に、日本留学のメリットは何でしょうか。
 東京に留学する場合、マンハッタン級の世界の大都市を体験できますし、日本人の生活レベルの高さや、安全、便利さも素晴らしい点です。また、非常に近代化した生活の中にも、丁寧さや人を非常に大事にする日本独特の文化があり魅力的です。また、留学を通して日本という異文化に対応することができれば、他の国にも適応できる力を養うことができると思います。日本独自のものを学ぶことも素晴らしいですが、異文化に適応し、世界でも応用できる力を身につける体験こそ、留学生にとっては大きなことかもしれません。体験を通じて世界を知ることは、どの時代も非常に重要なことだと考えています。


Rebecca Fukuzawa
 ノースウエスタン大学大学院博士課程修了。2002年から法政大学理工学部にて勤務し、2009年からESOPプログラムディレクター。

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