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ブライアン マサハート博士 
(武蔵大学 東アジア研究プログラムディレクター) 


プログラムのオープン化を  卒業後に日本で働けるかが重要

――政府は2020年までに留学生30万人の受け入れを目指し、国際化拠点整備事業(G30)などを中心に国際化を進めています。現在の状況をどのように見ていますか?
 日本はとても魅力的で世界にもっとプロモーションすべきだと思いますが、日本の大学をどのように国際化していくべきかをより考える必要があると思います。学部への留学生を増やすのか、それとも大学院生なのか。他にも、1年間の交換留学、1学期間の留学など様々な形があります。
 実は、既に多くの大学が国際化に向けて留学生受け入れのための取り組みを行っています。しかし、G30に選ばれた学校は13大学しかありません。また、2020年までに留学生30万人の受け入れを目指していますが、G30に13大学しか選ばれていない状況で、受け入れ先についてはどのように考えているのでしょうか。G30も30万人計画も一部の大学にしか影響を与えておらず、国際化を強力に推進していると言うよりも、「国際化」というプレゼンテーションを行っているように感じます。

――大学教育の国際化のためには何が必要でしょうか。
 国際教育に必要なことはプログラムがオープン化されている、つまり、あらゆる機関、人に対して開かれていることが重要だと思います。日本には780近い大学があり、多くの大学が国際交流プログラムを提供していますが、G30は13大学に限られています。もちろんこの13大学はナショナルリーダーであり、必要ではありますが、「日本=13大学」ではありません。

――どのようにオープン化していくべきでしょうか。
 例えば1年間の留学の場合、通常の授業は東京で学び、スプリングタームには秋田や九州で勉強することで、日本の多様性を学ぶことができます。短期留学の場合、学生が留学先として関心をもつポイントは、「大学」ではなく「日本」という国そのものであるケースがほとんどです。日本には北海道から沖縄まで個性豊かな地域が多く、日本のダイバーシティを体験できるプログラムを政府は実施すべきだと思います。これは一つの例ですが、このように実用的な国際化が必要です。現在の政策には、この「プラクティカル」(実用的)な部分が欠けていると思います。

――米国や英国などが留学先として人気ですが、近年中国も台頭し、中国で学ぶ留学生が29万人を越えました。日本の存在感の低下が明らかになっていますが、プレゼンテーションではなく実のある留学生政策を行えていないことに問題があるのでしょうか。
 「留学生30万人計画」について考えてみたいと思います。この「30万人」の市場はどの国や地域なのでしょうか。現在日本に留学している学生の大半は中国と韓国からです。中国や韓国といった限られた国からの留学生しかいない状況は、果たして国際化といえるでしょうか。
 米国も重要な市場の一つですが、米国の学生の多くは英国、イタリア、スペインなどのヨーロッパに注目しています。アジアを見ても中国に次ぐ二番手というのが日本のポジションです。しかも、中国は5番目に米国からの学生が多いですが、日本は11番目です。
 日本が、欧米など様々な国や地域から学生を獲得しようと考えるならば、実質的な側面を彼らにPRしなければいけません。日本で学位を取得すれば何ができるのか。日本企業への就職は期待できるのかといった問題です。日本が魅力的な留学先かどうかというのは、大学卒業後に日本で働けるのかどうかという点が非常に重要です。

――就職の問題もそうですが、現在の大学教育のままでは欧米や非漢字圏のアジアの国々からの留学生の増加は難しいのでしょうか。
 どのようなプログラムを提供するのかが鍵になります。例えば米国の学生のケースだと、留学期間として最も多いのはサマータームで、約38%を占めています。次に1セメスターが約36%で、アカデミックイヤーの留学はわずか4%弱です。米国を市場とする場合、短期留学のニーズが高いので、サマープログラムの充実や秋入学を含めた大学カレンダーのシフトは効果的だと考えられます。一方で、4年間の学部生を中国などアジアの国々から獲得しようとすれば、戦略は変わってくるでしょう。どちらにしても、“Think more practically”(より実用的に考える)が必要不可欠です。


Brian Masshardt
 米国出身。2004年から武蔵大学で勤務。ハワイ・マノア大学で政治学の博士号を取得。1991年~1992年の1年間、JETプログラムで千葉県にて勤務。

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